雷鳴は暗い寝室のベッドの上まではやって来やしなかった。
手触りの良い清潔なシーツは零兄さんの香りに満ちている。

「ぁ、れ、れいにいさんっ……! ひ、ぁああっ」

兄の寝室で、くちゅり、と耳を塞いでしまいたくなるほどいやらしい音が響いた。
男性らしい大きな褐色の手が、何も身に纏っていないわたしの身体中を撫でまわしている。
幼い頃は一緒にお風呂にも入っていたとはいえ、それは十年くらい前までの話であって、こうしていま零兄さんに触れられていると羞恥でどうにかなってしまいそうだった。

――ダイニングルームで繰り返されるキスの合間、こんなところでは、と苦笑してわたしを抱き上げた零兄さんは自室へと連れてきてくれた。
大きなベッドへそっと降ろされ兄の香りに包まれる。
それだけで、きゅう、と胸の奥が締め付けられ、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。

「ん、んぁっ……れぇにいさんっ」
「なまえ、痛くないだろ?」
「っあ、……うんっ、は、ぁ、あぅ……でも、なんか、へんな感じ……」
「変な感じじゃあなくて、気持ちいいって言ってごらん、なまえ」

わたしの胸元から顔を上げた零兄さんが、いつものとろけるような微笑で囁いた。
形の良い唇は唾液で濡れ、ぬらぬらと光っている。
兄に舐められ、時折歯を立てられていた乳房の先端、つんと尖ったわたしの乳首は痛いほどに張りつめていて、じくじくと疼いていた。
いままで胸を触られたりやわらかく揉まれたりということはあったけれど、舐められたり吸われたり、やさしく噛まれたりするのが、こんなに気持ちのいいことだとは知らなかった。

なによりも、それと同時に、下腹部の潤んだ割れ目を指腹でゆるゆると撫でられている感覚が、気が狂いそうなほどの快楽を生み続けている。
ソコからは恥ずかしいほど淫猥な蜜液が流れ出ていて、お尻までとろりと垂れたものが冷たくてぞわりと肌が粟立った。
身体中がぐずぐずに弛緩して、脳裏が朦朧としてくる。

いつの間にか濡れた粘膜を撫でる指は、時折、呆れるほどだらしなく淫液を溢れさせる狭い孔にも侵入してきていた。
異物の挿入に怯えたのはほんの数瞬のことで、ナカの膣壁をそっとなぞられたり、くちゅくちゅと抜き差しされると、擦られた肉襞は兄の褐色の指を舐めしゃぶるように締め付けた。
――自分でも見たり触れたりしたことなんてない恥ずかしいところを、兄に見られて掻き乱されている。
そう思うと、羞恥で全身の血液が沸騰してしまいそうだった。

「あっ、ああぁっ……」

まるでどろりとした蜂蜜の瓶に指を突っ込み、掻き回しているような粘性を帯びた水音がひっきりなしに響く。
それが自分から出ているものなのだと思うともうどうしようもなく恥ずかしくて、けれど決してやめてほしいとは思えない。
わたしはこんなことを望むようなふしだらな女だったんだ、と改めて身につまされるような思いで、茹だるような熱が苦しくてくらくらした。

膣粘膜の浅いところをぬるぬると上下に擦られると、ぬるま湯に沈んでいくような心地良さで、身体の芯まで溶けていくみたいだ。
よく分からないけれど、身体のずっと奥、下腹の辺りが妙にずんと重たくなったように感じられた。
気持ち良さと狂おしさ、そしてむず痒いような胎内の疼き。
どうにかなってしまいそうだった。
――これは、なに?
腹の奥が切ないと訴えかけるように収斂した。
自分が自分じゃなくなってしまうような感覚に目眩がする。

「なまえ?」

忙しない呼吸を繰り返すのに必死で、ちゃんと言葉を形作れずにいたわたしに零兄さんが問いかけてきた。
なだめるように、ちゅ、と軽くこめかみに口付けられる。

兄も上半身には何も纏っておらず、鍛えられた男性らしい身体を露わにしていた。
褐色の肌に目を凝らせばうっすらと大小様々な古傷が残っていて、警察官として日本を、そしてわたしたちを守ってくれている兄を誇らしいという思いと、そんな兄に道を踏み外させているのだという罪悪感で、気が遠くなりそうだった。

「う、ぁ……きもち、いい……! きもちいいよぉっ、れぇにいさんっ」
「なまえは素直に感じるいい子だな。元々そういう性質(たち)だったのか……それとも、」

澄んだ青い双眸が、剣呑な光を帯びる。
まともに言葉も吐けず愉悦にとろけていた頭でもはっとするほど怜悧な目に、なにかがぞわりと背筋を這いあがった。

「――透あたりにでも仕込まれたか?」

唾液で淫猥に濡れる唇は、いつものように端正な笑みを浮かべている。
けれど天色の瞳はぬらりと暗鬱に光っていた。
透兄さんのやわらかなものとも、バーボンの婀娜めいたものとも違う、なにか、――後ろ暗い感情を長い間ずっと煮詰めてどろどろにしまったかのような笑み。
背筋をぬらぬらと這いずって来るような恐ろしさに、快楽ばかりではないふるえを覚えた。

「ちがっ、こんな、こんなこと、初めて……零兄さんが、はじめてだもんっ……!」

わたしに覆いかぶさる兄を必死に見上げて喘ぎまじりに告げれば、零兄さんは満足げに微笑んでくれた。
この世界でわたしだけに向けられるとろけた微笑は、やっぱりこんなときでも途方もなくきれいで、涙で潤んだ視界のなか蜂蜜色の髪がきらきらと輝いていた。
間抜けなほどぼんやりと兄に見惚れていると、褐色の指は動きを速めた。
ぐちゅぐちゅとあられもない水音が高く鳴り、――ふいに、ふるえる淫唇の上辺り、なにかの突起に兄の指が触れた。

「ひあぁっ!? れ、零兄さんっ、だめ、それっ……! ひっ、ゃ、やだぁっ」

びりっと雷に打たれたような激しい愉悦が全身を走り抜ける。
鋭い喜悦に、自分の意識とは関係なくびくっと脚が跳ねた。
頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されるようで発作的に身悶えて逃げようとしたものの、逞しい兄の腕に腰を抱えられてはどうしようもない。
ぶるぶると内腿のふるえが止まらない。

「な、なにっ、なにこれぇ……! ゃ、にいさん、こわい、こわいよぉっ……」
「なまえ、怖いじゃないだろ?」
「……ゃ、やら、れぇにいさん……」

聞き分けのない子供のようにいやいやと首を振ると、零兄さんは仕方ないなと言わんばかりに、けれど幼い子のわがままを甘やかすように目元をゆるめて微笑んだ。
声色も微笑もよく知る兄のもので、とても優しそうなのに。
その優しさとは裏腹に、決して許してはくれない兄は、強引にわたしの膝裏を抱えて押し広げてしまった。

「やぁっ、ん、んっ……おにいちゃんっ」
「なまえ、なまえ、怖くない。お兄ちゃんはここにいるから」

幼い頃、怖い夢を見て泣きながら起きたときのように甘ったるい声音で、よしよしと頬をくすぐられる。
伝い落ちる涙をあやすように指先でぬぐわれ、まるでわたしがひとり子供じみたわがままを言っているような心持ちになってくる。

「分かるだろ? もうこんなに濡れてるのが」

ほら、ここ。
びしょびしょに濡れた兄の指が、さっきの場所をかすめた。
びりびりと痺れるような刺激に、下腹から先全てがどろりと溶けていくような心地がする。
思考が真っ白になる悦楽に、口の端から唾液がしたたる。
それを零兄さんに舌先で舐め取られ、腹奥からとろりとまた粘液が溢れ出る感覚がした。

「ここはお前が一番感じやすいところだよ。ほら……こんなに膨れてるだろ?」

手を取られ、ここ、と触らされる。
驚くほど熱がこもりぐちゃぐちゃにぬかるんだ膣口の少し上、肉の芽は指先でちょんと触れただけで、激しい媚悦に襲われてしまう。
兄の言う通り、そこは恥ずかしいほどに勃起して膨れていた。

「ひああぁっ!」
「本当になまえはそこが好きなんだな」

零兄さんが雄くさく低く笑って、ぷっくり張りつめたそこをあやすようにくりくりと撫でた。
膣から分泌された愛液を指に絡め、それを塗り付けるようにされると、自然と腰が浮いてしまう。

「ああぁっ、はあっ……ぅああんっンッ、おにいちゃんっ……!」

自分のものなのに、わたしの身体は一向に言うことを聞いてくれない。
背筋は反り、脚はぴんと伸びていて、ゆるゆると腰が揺れる。
口からはひっきりなしにいやらしい喘ぎがこぼれて、どうしても止められない。

「あぁっ、あ、おにいちゃ、ああぁ……! な、なに……? なに、これ、おにいちゃ、なんか、へんなの、っああっ、らめぇっ」

体内からせり上がってくるような喜悦の波に怯える。
どこかへ行ってしまいそうな、あるいは、なにかがやって来るような。
自分がなにか別のものに変容していくような恐ろしさを覚えた。
けれどそのとき感じていたのは、――恐怖だけではなかった。
うっすらと湧くのは、ひっそりとした期待。
この向こうに、途方もない快楽があるのだと。
ずっとずっと待ち望んでいた、なにかが。

「……なまえ、やっぱり怖いか?」

眉を下げて苦笑した兄が、わたしの髪を撫でながら呟いた。
その表情はいつもの零兄さんのもので、胸奥がむずむずとしてくる。
きっと本気でわたしが嫌がれば、兄さんはやめてくれる。
――だからこそ、やめたくなかった。
首を振って、零兄さんがすることだから大丈夫、と荒い呼吸のなか必死に告げれば、兄はそれはそれは嬉しそうに相好を崩した。

「いいこ、」

嬉しい。
零兄さんにそうして褒められると、喜びで胸がいっぱいになる。
目も眩むような多幸感のまま、唇をねだる。

心の底から幸福で、これは悪いことなのではないと信じた。
――いいや、例え悪いことだと、過ちだったとしても、構わなかった。
わたしが感じていたのは、ただ、渇望し続けてきた兄の熱、触れ合える喜び、気が狂ってしまいそうなほどの肉体の悦楽、そして果てのない至福。
罪悪感なんて、そこにはなかった。

「おにいちゃぁんっ、あ、あぁっ、らめ、あっ、ああぅっ」
「なまえ、いいよ、イッてごらん」
「あッ、あぁんっ、おにいちゃ、――ふぁ、ぁあああぁあッ……!」

ただでさえ敏感な陰核を、兄の指が押し潰すようにして擦り立てた。
苦しいほどの快楽を否応なしに与えられ、ふわっと身体が浮くような錯覚に襲われる。
視界が白く弾ける。
引き攣れるように、びくっびくっと勝手に下肢が跳ねた。
はあはあと驚くほど大袈裟に呼吸が荒くなって、脳髄や肉体の芯がとろけてしまったようにぼうっとして溺れそうだった。

「はあっ、はあっ……ふ、ぅっ、はーっ……あぅ、れぇおにいちゃん……」
「いい子だ、なまえ。ちゃんとイけたな」

――初めて感じるこれが、絶頂というものなの?
とろりと目端をゆるませた兄が、褒めるようにわたしの黒髪を撫でた。
いままで経験したことのない、意識や自我の飛んでしまいそうな感覚は怖いくらいで、けれどずっと飢餓感にも似たもどかしい思いを続けてきたわたしは、ようやく得られた鮮烈な快楽に恍惚としていた。

けれど同時に、――わたしは、また新たな飢えを自覚する。
兄にいじられていた敏感な突起の下、ぽっかりと小さく口を開け、相変わらずだらしなくだらだらと蜜を溢れさせている膣孔の空洞。
ソコがまだなにかを欲しがっていることを、痛いほどに感じていた。
身体の奥がなにかに満たされたくて、ひくひくと収斂を繰り返している。
どうしてだろう、心地いいはずなのに、なにかが物足りなかった。
一度も埋められた経験などありはしないのに、なぜだかその空洞が寂しく切なく、妙に気が逸(はや)って仕方がない。
……欲しい。
零兄さんが、欲しい。

零兄さんは、ちゅ、ちゅ、と軽やかに額や頬に口付けて、わたしが落ち着くのを待ってくれていた。
狂おしいほどの歓喜の波がほんの少し引いて、ぐったりと息を整えていると、胸奥にわだかまっていた思いがふいにぽろりとこぼれ出た。

「……なまえ?」
「おにいちゃ……れ、零兄さんが、兄さんじゃなきゃ……良かった」

ずっと考えていたことだった。
兄じゃなければ、妹じゃなかったなら。
いくら世事に疎いわたしだって、これが過ちだなんて痛いほどに理解している。
こんなの、本当はいけないこと。
ただでさえ零兄さんはこの国の警察官で、たくさんの部下のひとたちもいるとても優秀な捜査官だ。
もしわたしとのことが露呈すれば、きっとその立場は危うくなる。
人としても捜査官としても、この国にとってきっとなくてはならない優れた存在である零兄さんに、わたしのせいで道を踏み外させているのだと思うと、――倫理に対してではない、ただ、愛する兄への罪悪感で、気が遠くなりそうだった。

けれど、もしわたしが妹ではなかったなら。
こんなわたしを零兄さんや透兄さん、バーボンは、果たして愛してくれただろうか。
仮に赤の他人だった場合、兄弟たちのように優れた人からは、悲しいほど劣ったわたしのような他人の存在なんてはじめっから目に入らなかったかもしれない。
だから妹で良かったとも思う。
……けれど。
いくら考えたって答えの出ない、意味もない仮定にぐるぐると沈み込んでしまいそうになっていると、零兄さんが、ふ、と苦笑した。

「……なまえ。俺はお前が妹で良かったと思っているよ」

いつも正義感に満ち溢れ、意志の強そうなきりりと整った眉がやわらかく垂れている。
どうして、とおずおず見上げると、零兄さんはいつものように優しく微笑しながらわたしを抱き締めた。

「他人だったら……恋人や、夫婦だったら、関係をやめることは出来るだろう? でも、お前と俺の血は同じで、それはずっと変わらない」

――死ぬまで。
天色の瞳を細めて、零兄さんがそれはそれはきれいに微笑んだ。
その絵画じみて美しい笑みを目の当たりにした瞬間、胸を突かれるような痛みがはしった。
同じ血が流れているこの体は、兄の言う通り、ずっとずっと変わらない唯一のものだった。

絶対に途絶えることのない繋がり。
零兄さんの言葉は毒のように、呪いのように、ゆっくりゆっくりわたしの身体に染み込んでいくようだった。
死ぬまで、――いいや、死んだとしても、零兄さんがわたしの兄で、わたしが零兄さんの妹だということは変えようのない事実だった。
わたしがわたしであることが変わりないように、もし仮にこの先兄たちと離れてしまうことがあったとしても、決してわたしたちは他人にはなれず、この体には兄弟たちとずっと同じ血が流れ続けていく。
そう思うと、目も眩むような幸福でぐらぐらと頭が煮え立つ思いがした。

「っ……零兄さん、好き」
「俺もお前を愛しているよ」

早くこうしたかった、と兄が低く囁く。

「わたしも、ずっと、零にいさんと、」

その先は、堪えきれないとばかりに重ねられた唇のせいで声にならなかった。
兄のぬるつく舌がわたしの唇を舐め、そしてすぐに口腔へ侵入し、らしくない荒々しさで粘膜を蹂躙される。
忙しなく呼吸を奪い合うように繰り返されるキスは苦しいほどで、絶頂の余韻ですぐに再び意識が朦朧としてくる。
耳奥でダイレクトに聞こえる水音は下品なほどで、羞恥を感じるより前に、兄とわたしがこの音を響かせているのだと思うとその淫らな音にすら昂りを覚えた。

溺れるような口付けに酔っていると、いつの間にか熱く硬いものが、しとどに濡れる蜜口をなぞっていることに気付く。
ふやけてしまうんじゃないかというくらいに零兄さんが掻き回した膣粘膜に、指よりもずっと熱い塊が触れた。
下腹部へ――くち、くち、と粘っこい水音を鳴らす淫襞の方へそろりと視線をやると、驚きで目を見開く。
清廉な兄の顔には不釣り合いなほど大きなモノ。
知識としては知っていたものの、あんなに長大なものが自分のなかへ入るとは思えず、びくりと身がすくむ。
けれど怯えを伝えるより先に、その先端がくぷりとずぶ濡れの狭孔へ侵入してきた。

「いっ……! ぅ、く、あぁぅ……」
「ッは、ぁ、なまえっ……」

笠の開いた切っ先が、充分に濡れているとはいえ、誰の侵入も許したことのない隘路にじりじりと押し入ってくる。
一枚の肉だった部位が拓かれていく――孔にされてしまう。
初めて感じる身体の内側から引き裂かれるような鮮烈な痛みに、ちかちかと視界が明滅する。
ぶわりと全身に汗が浮く。
硬いモノが触れた部分から自分の身体がつくり変えられているのを感じて、自然と涙が溢れた。
大粒の涙がぼろぼろと流れ、こめかみへ伝い落ちていく。
けれどこれは悲しいから痛いから出てくるのではないと、わたしはちゃんと理解していた。

零兄さんが、わたしのなかに。
――嬉しくて、幸せで、気が遠くなりそうだった。
兄と妹でいけないことをしている――そんな考えが再びちらりとよぎったけれど、いま感じている幸福や快楽の前では羽よりも軽い些細なことだった。

「なまえ」
「ぅ……っ、」
「なまえ、力を抜くんだ。ゆっくり呼吸しなさい」

兄さんに促され、なんとか必死に息を吸って、吐く。
気を抜くと、ぐっ、と力が入り過ぎて、呼吸も忘れてしまいそうだ。
はくはくと空を噛むように懸命に息を繰り返していると、とうとう最奥まで兄のものが至ったことを知る。
身体の奥底で、どくりどくりと脈打つ感触に肌が総毛立った。
隙間なくぴったりと重なり、わたしたちの距離がゼロにる。

「いい子だ、なまえ……」

褒めるように零兄さんの大きな手で髪を撫でられ、痛みをやわらげてくれるその感触に酔う。
自分の身体のなかに、自分じゃないものの熱い脈動を強く感じる。

「あ、ああぁぅ……れぇにいさぁん……」
「ッ、ふ、……なまえ、」

爛れた吐息と共に名前を呼ばれ、閉じていた目を開く。
眼前には、この世のものとは思えないくらいきれいな兄さんのお顔が快楽に歪み、見たこともないほど淫猥にとろけていた。

いつもは生真面目できりっとした表情ばかりの零兄さんが。
キスをしていてもいつだって涼しい顔をして、わたしばかりが乱されていると思っていた。
その差がちょっとだけ悔しくて、兄さんもわたしみたいに乱れてしまえばいいのに、と密かに思っていたのに。

「は、あっ、なまえっ、」

熱っぽく、はあっと大きく息を吐いて零兄さんが荒くわたしの名前を呼ぶ。
いつもは知的で冷静、意思の強そうな青い虹彩が、どろりと爛れて潤んでいる。
至福に満ちた顔貌はまるで知らない男のひとのように惚けてとろけていて、けれどそれは紛れもなく零兄さんのもので。

兄の呼吸ひとつ、表情ひとつとっても、――眼差しひとつにすら、信じられないほど昂る。
わたしの身体で気持ち良くなってくれているのだとしたらこれ以上幸せなことはなかった。
こうしてずっとわたしのナカを埋めていてほしいとすら願うほど。

「んっ、あっ、にいさん……零兄さんも、きもちいいの……?」
「きもちいいよ、なまえ……ッ、はあっ、お前とずっと、こうしていたいくらい」

零兄さんも、同じことを考えていたんだ。
嬉しくて、嬉しくて、繋がったまま唇に口付けられ、あまりの多幸感にまたぼろぼろと涙がこぼれた。

兄が腰を動かすと、生まれて初めて大きく拓かれたばかりのソコには未だ強い違和感があるものの、耐えきれないほどではない。
零兄さんのミルクティーのようななめらかな肌に透明な汗が浮いていて、くらくらと眩暈すら起こしてしまいそうな色香がますます濃くなっていた。
気が遠退きそうになっても、断続的に与えられる膣襞をめくり上げられ最奥を突かれる狂暴な刺激に、すぐに意識を引き戻される。
淫らに兄を咥え込んだ胎内が、わたしの意思とは関係なく、凶悪なまでに大きく勃起した肉棒をもっと奥へ奥へと誘い込むように蠢動するのを感じていた。

――もう、なにも考えられない。
ただ、兄の逞しい身体と、火傷してしまいそうなほどの熱と、そしてわたしの肉体すべてを根こそぎ変えられてしまいそうなほどの強烈な快楽だけしか感じられない。
そしてそれがたまらなく気持ち良くて、もういっそこのまま死んでしまいたいと思うほどに幸せだった。

「あ、あぁあっ……れぇにいさんっ、も、おかしく、なっちゃうぅ……!」

助けを求めるように伸ばした手は、しっかりと兄がつかんだ。
空を連想する明るい天色の瞳にはわたししか映っていない。
視界も身体も、そして心まで、零兄さんに満たし尽くされる。

「おかしくなればいい、なまえ、」

苦しいほどに強く抱きすくめられ、霞んだ視界に兄の蜂蜜色の髪がさらさらと揺れていた。
耳元で爛れた吐息まじりにそう囁かれ、わたしはうっとりと微笑んだ。

――きっと、もう、おかしくなってる。
ずっとずっと前から、零兄さんと一緒に。


(2018.03.28)
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