(※「だって仕方ないじゃない!」の降谷さん視点です)
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(※【2021/09/09追記】ナノさんへ移転したためハートマークを改削しています。ご了承ください)




まじでか。
降谷零は胸のなかで呟いた。

寝起きは良い方だと自負している。
意識が浮上してすぐに自分の周囲の状況を瞬時に把握するのは、身に染み着いた癖のようなものだった。

仕事柄、危ない目には幾度も遭ってきた。
もうこれまでか、と思う死線だって潜り抜けてきた。
それでもこれほど動揺する目覚めは、たぶん生まれて初めてといっても過言ではないと思う。

「ぁ、ふ……っ、れい、れぇ……!」

まるで行為の最中のような声で――いいや、”まるで”だとか”ような”なんて比喩など必要じゃない。
降谷は思わず小さく呻いた。

……目が覚めたら、腕の中で彼女が自分の名前を呼びながら自慰に耽っていました。
どんな童貞の妄想シチュエーションかよ、と突っ込んだところで、突っ込んでいるのは降谷自身の方だった。
……なんて、馬鹿なことを考えている場合じゃあない。

降谷は冷静になりきれていない頭を自覚しつつ、ぐるぐると思案し始めた。
主に十数時間前、昨夜帰宅してからのことを。
ようやく数日ぶりに自宅へ帰り、いつものようになまえが迎えてくれた。
いまにして思えば、きっとそれがきっかけだった。
なまえの姿を目にした瞬間、仕事による尋常じゃない疲労感だとか、自らのテリトリーに帰ってきた安心感だとか、嬉しそうに微笑むなまえが可愛いだとかめちゃくちゃ抱きたいだとかそういえばここ最近処理もしていなかっただとか――要は、暴走したいろんな感情が、普段は強固な理性というストッパーをどこかへ跳ね飛ばしてしまったのは覚えている。
結果、玄関で襲うような真似をしでかしてしまった。
……なまえも、存外楽しんでいたのは否定しないだろうけれど。

玄関で一発、風呂に移動しもう一発、そして寝室へ。
……非常に申し訳ないことに、風呂を出た辺りから記憶がはっきりとしない。
どうやら後処理もせずに、寝落ちしてしまったらしい。
状況から鑑みて、挿入したままのモノを抜くためになまえが仕方なくこうしているのだということは把握できた。
だからといって、即時冷静になれるかと問われればまた別の話だが。

降谷は胸中でもう一度呟いた。
まじでか。

「なまえ、きもちいいよぉっ……! あぅ、零、れいぃ、」

はあっはあっと繰り返される荒い吐息は熱を帯び、途切れ途切れに聞こえる女の嬌声は甘ったるく潤んでいる。
音声だけで、雄の欲を煽り立てるには十分すぎた。

背後から抱き締めている体勢のせいで顔を見ることは出来ないが、浮かぶのは昨夜のなまえの淫らな表情。
涙の膜の張る黒い瞳、真っ赤に上気した頬。
とろんと惚けた表情はどこまでも淫蕩で、強固な理性と優秀な頭脳を誇る降谷をもってしても、思考を熱でぐずぐずにさせてしまう威力を十二分に備えていた。
いま直接目にすることは出来ないとはいえすぐに思い描けるなまえの痴態に、昨夜、底まで吐き出しきったと思っていた欲望が下腹でずくりと疼く。

……まじでか。
先程との方向性の違う感嘆を、やはり胸中だけで呟く。
まだまだ俺も若いな、と、老け顔気味の彼の部下が聞けば嫌味ですかと憤慨されそうなことを考えながら、降谷は昨夜の負い目もあることだし、冷静になれ、と自分に言い聞かせていたが――、

「ああっ、んぅ……ひぁっあっ、れぇ、零ぃっ……!」

――なんだそのいやらしい声は!
寝起きでぐちゃぐちゃに動揺した頭が、それだけを思った。
しっとりと汗の浮く白い肌は淡い桃色に上気していて、かぶりつきたい衝動に襲われる。
もういっそ無理やりベッドに押さえ付けて、めちゃくちゃに突き上げてやりたい。

なまえは何度も降谷の名前を呼びながらびくびくっとふるえ、どうやらとうとう達したらしいことを知る。
しとどに濡れた膣内はきゅぅっと収斂し、嬉しげにナカを埋める肉茎に吸い付いた。
そのあまりにも甘美な締め付けに、思わず降谷は息を詰めた。

はーっ、はーっと大きく息を荒げている彼女は、そこでようやく下腹部の違和感に気付いたらしい。
整わない呼吸のまま、ぼんやりと呟いた。

「ぁ……おっきくなってる……?」

そりゃあそうだろ。
思ったままに口にすれば、なまえが声にならない叫びを上げた。

「れっ、れ、れれれ……」
「ハイハイ零くんですよ」

髪の隙間から覗く耳や首は真っ赤に熟れている。
美味しそうだな、と思いながら、腹奥から湧き上がってくる欲望がますます煽られていることを自覚する。

「ど、どこから起きてたの……」
「あー……零のばかってお前が言って触り始めた辺りかな」
「ほぼ最初!」

ばか! あほ! と、なまえが叫ぶ。
俺に向かって馬鹿だの阿呆だの罵れるのはなまえくらいだなと考えながら、降谷は未だ陰茎を挿入したまま、ゆるゆると腰を揺らした。

凶悪なほど膨張した肉棒と、蜜液を溢れさせるこなれた隘路には不釣り合いな、くぷくぷと間抜けな水音が漏れる。
射精するにはまだ遠いが、確実に蓄積されていく快感に頭の芯がじわじわと侵されていく。

「ひ、あんっ! ……っ、やめて! 動かさないで!」
「なまえだって腰揺らしてたくせに。……昨日、あれじゃ足りなかった?」

朝っぱらからあれだけ煽っておきながら、反応させるな、動かすな、と言うのは酷すぎやしないだろか。
揶揄を含んで耳元で囁けば、なまえが小さく喘ぎ声を漏らして身をすくめた。

「っ、ん、体勢変えるぞ」
「あっ、〜〜っ、れ、零っ」

ようやく真正面から見ることの出来たなまえの顔は、やはり茹だるように真っ赤に染まっていた。
どうやら羞恥でまともに目も合わせることも出来ないらしい。

一糸纏わぬなまえの肢体をほんの数時間前のようにベッドへ沈めながら、降谷はにっこりと笑みを浮かべる。
幸いにして、今日降谷の予定はない。
正確には午後から安室として喫茶店のバイトはあるものの、ベッドから出るにはまだまだ早い時刻。

「なまえ、」

どうしようもない愛しさのまま名前を呼べば、自分のものかと驚くほど、恐ろしく甘ったるい声色をしていた。
まるで恋心を知ったばかりの少年のように無垢に、それでいて欲にまみれた熱を孕んで。

意図してのことではなかったが、効果は覿面だったらしい。
ぐっと唇を噛んだなまえは、流されてたまるかと逸らしていた目元を早々にゆるませてしまった。
紅潮したまるい頬に小さくキスを落とせば、ほら、もう機嫌は治ってしまったらしい。

――なんだかんだ甘いのだ。
降谷がなまえに対して同じくそうであるように。

ようやく正面から抱き締められる。
降谷も口元をゆるませた。
やはり淫らなことをするなら、正面から顔を合わせながらの方が良いな、と思いつつ。

「おはよう、なまえ」
「……おはよう、零」

淡くほころんだ唇にかぶりつく。
口付けは、呼吸すら奪うようにだんだんと深くなっていく。
ねっとりと口腔をねぶるそれは、耳を覆いたくなるほどの粘性を帯びた水音をひっきりなしに響かせる。

カーテンの隙間からは明るい陽光が細く射し込み、爽やかな朝には些か不釣り合いだったが、それを指摘するような野暮な者はこの寝室にはいなかった。


(2017.09.14)
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