日を追うごとに寒さが緩んできて、もう春だなあと実感することも増えてきたある日。
学校からの帰り、勉強するためとはいえ、彼の自宅にわたしひとりでお邪魔することになってしまった。
付き合っているとはいえ異性の部屋へ足を踏み入れるなんて、緊張するのも当然だ。
正面に座る花京院くんの顔を上手く直視できず、承太郎も一緒に来てくれたら良かったのにと、こっそり溜め息をついた。
ちなみにその承太郎さんは、他校生から果たし状を叩きつけられたとかで不在である。
無事を祈るばかりだ。
勿論、見ず知らずの他校生の。

花京院くんの自室へお邪魔して、はじめ挙動不審になってしまうくらいだった緊張も、真面目に学校で出された課題に取り組んでいれば、次第にほどけていった。
エジプトへの旅を終え、そんな普通の「日常」を花京院くんと送ることが出来ることが心から嬉しい。
少々浮かれているのを自覚しつつ、手を動かす。
理知的で優等生然とした彼はその雰囲気と違うことなく、すっきりと読みやすい丁寧な字を綴る。
その字にすら見惚れつつ、学校であったことや旅の仲間たちの近況など、たまに会話を挟みながら課題を進めていく。

……ただ、ひとつ困ったことがあった。
くい、と控え目にスカートを引っ張られる。
まったく、何度目だろうか。
溜め息をつきながら花京院くんを睨む。

「……花京院くん」
「なんだい」
「おたくのハイエロファントさん、ちゃんとしまっておいてほしいんですけど」
「ああ、すまない」

なにがすまない、だ。
反省してないな絶対。
じとっと半眼で睨みつつ、わたしのスカートの端をいじいじと引っ張っていたハイエロファントの触脚をつかむ。
そう、一緒に課題をしながら時折、花京院くんがその優秀なスタンドを使って、他愛のないちょっかいをかけてくるという点が問題だった。
つかまってしまったハイエロファントグリーンは、本体の後ろでなんとなく申し訳なさそうにしている。
ああ、あなたのことは責めてないの、責められるべきは、

「っ、ちょっと! 花京院くん、やめてって言ってるでしょ……!」

課題を終わらせようという名目でわたしを誘ったのは彼自身だ。
それをちゃんと果たそうとするわたしはなんて真面目なんだろうか。
少なくとも、いつの間にか教科書類や筆記具をテーブルの遠くへ追いやって、わたしの上へと覆いかぶさってきた花京院くんに比べたら、ずっと。
あつらえたように彼のご両親は出かけていて不在だし、その……そういった行為自体は初めてではないとはいえ、本来の目的を忘れるのはいかがなものか。

なんて考えている間にも、彼の端整な顔が近付けられる。
特徴的な彼の前髪が、床に押し倒されたわたしの頬に触れ、じわじわと顔全体に熱が集まるのを自覚する。
それが恥ずかしくて、気取られないよう一生懸命怒った表情をつくる。
憤慨したまま、いつもの深緑色の学ランを脱いで白いシャツだけの胸板を押し返した。
だけど予想していたとはいえ、びくともしない。
それでも抵抗しないよりはマシだと、押しのけようとする腕に力を込めた。
そうやって抵抗するわたしをせせら笑うように、ゆらゆらと彼の後ろで揺れていたハイエロファントの触脚が、明確な意思を持ってこちらへと向けられた。
目を見開いて体をよじろうとしたところで逃げられる訳もなく、両腕をそれぞれ頭の横、左右の床に縫い付けられる。

「……っ、な、ちょっと、か、花京院くん!」
「怖がらないでくれ、僕が君を傷付けることなんてする訳がないだろ」
「怖がってなんかない、けど!」

腕と同じように、バタバタと荒げていた両脚も押さえ込まれる。
視界の端には、うねうねと蠢く見慣れた緑色。
――ちょっと待て、スタンドはこんなことに使うものじゃない!

「花京院くん! 放して!」
「放す? 僕は君に触れてはいないだろ?」

肩をすくめて心外だと言わんばかりに囁く花京院くん本人は、確かにわたしに触れてはいない。
四肢を床に縫い付けられて身動き出来ないわたしを上から眺めながら、何が楽しいのか、にやにやとその大きな口をゆるめるばかりだ。
口をへの字に歪め、その笑顔を睨みつける。

「それにっ、こういうことはお互いの同意の上で、」
「大丈夫さ。ちゃんと後々、合意になるから安心して」
「ぜんっぜん安心できない……!」

そんな不毛な言い争い(一方的にわたしが叫んでいるだけだったけど)をしていると、する、とセーラー服の裾から触脚が入り込んできた。
お腹をゆるやかに撫でられるその感覚に、文句を言っていた声がぶつっと途切れる。
肌を這うそれは、そろりそろりと上へ移動し、ブラの上からむにゅりと胸を揉んだ。
びくっと体がふるえて、変な声がこぼれ出た。や、やだ……!

「っ、や、やめて、……ぁっ、んん!」

やわやわと強すぎない絶妙な力加減で両方の胸を揉みしだかれる。
拒否の声を上げるけれど、二の腕や両手首、太腿や膝を押さえ付けられている状態じゃ、良くてせいぜいほんの少しだけ緑色のそれを揺らす程度のことしか出来ない。
わたしを見下ろしてにまにまと笑う花京院くんを、力を込めて睨みつける。
誰だ、彼のことを理知的で優等生然としているなんて考えていたの!

「っあ、……やだ、っ、かきょ、い、く、っ……!」
「嫌と言うわりにはしっかり興奮してるみたいだけど、もしかしてなまえ、こういうプレイが好きだったのかい?」

それなら今まで気付かなくてすまなかったと、いっそ清々しいほど白々しくのたまった花京院くんに、カッと頭に血が上る。
いい加減にしてと大きな声で拒否しようと口を開いた、その瞬間。
ブラの上から胸全体をゆるく揉みしだいていた触脚が、見計らったように布の下へ潜り込んで、胸の先端をぎゅっと摘まみ上げた。

「ひうぅっ!? やっ、ああっ!」
「はは、もうこんなに固く尖らせて……待たせてしまって悪いことをしたかな」
「ち、違っ、あ、ひぅっ……っ、やぁっ」

ずっとさわさわと肌を這うような刺激ばかりだったところに、突然そんな直接的で強いものを味わわされ、一瞬、目の前にちかちかと火花が散った。
脱がせもめくり上げもせず服の裾から触脚が忍び込んでいるせいで、スタンドを持たない人から見れば、セーラー服の下で何が行われているか分からないだろう。
でも、わたしも花京院くんも、どこをどうされているか、はっきりと感じている。

固くしこった胸の先を、僅かに痛みを覚えるほど摘ままれる。
同時に、まるで搾りたてるように別の触脚がぐるりと乳房に巻き付き、ぎゅうぎゅうと刺激された。
今まで一度たりとも経験したことのない感覚に、ばかみたいに甘ったるい喘ぎ声しか発することが出来なくなってしまう。
いつの間にか浮かんでいた涙のせいで、視界が歪んだ。

「……ふふ、可愛いなあ……」
「かきょぉい、く、ああっ、ぅ、も、もうやだぁ」
「ああすまない、早く下も触ってくれって?」

――話が通じない! いや、わたしは今まともに喋れる状態じゃないけど!
嬉しそうに大きな口をだらしなくゆるめて、にやにやと笑う花京院くんを痛い目に遭わせないと気が済まないと心から思う。
けれど、そんな気持ちとは裏腹に、太腿をするりと撫でた新しい触脚に、期待していたかのように腰をびくっと跳ねさせてしまった。
歯を食いしばってみっともない声を堪えようとするものの、ゆっくりと探るように焦らすように太腿の内側をなぞるその感触。
むず痒い感覚がどうしようもなく堪らない。
手をきゅっと握り締めて必死に花京院くんを睨むけれど、当の本人は笑顔で、それでいて欲情しているのをちっとも隠そうともせずギラギラと光る瞳を真っ直ぐに向けてくる。

とうとう触脚はわたしの足の付け根にまで至ってしまった。
逃げようと腰をよじるものの、お腹に回された別の触脚にすぐに封じられ、身じろぎすら許されなくなる。
下着の上からソコを撫でられ、……はっきりと、くちゅり、という少しだけ粘性を帯びた水音が響いた。

「っ、あ、ああ……」

強く、強く、目をつぶる。
噛み締めた歯が、ぎりっと音を立てた。
いっそのこと失神してしまいたいくらい酷い羞恥に、また涙が浮かんだ。

「なまえ、気付いているかい? まだ脱がしてもいない、布の上からなのに、ほら、こんなに」

嬉しそうに浮ついた彼の声に、唯一自由になる首をひねって顔を背けた。
でもすぐに触脚が顎をすくい上げて、正面を向くように頬を固定されてしまう。
ほら、と眼前に差し出された緑色のそれは、ぬらぬらと液体によって濡れ光っていた。
それが何かなんて、考えるまでもない。

「――っ、う、花京院くんの、へ、変態……!」
「っは、なまえ、」

拭うことも出来ずこぼれ続ける涙のせいで、視界は相変わらずぼやけたまま。
そんななか必死に彼を見上げ、気持ち良さでとろけた声のままそう責めて非難すれば、目の前の彼が興奮で息を荒げ、わたしの名前を呼ぶ声が微妙に上擦ったのが分かった。

太腿辺りには、花京院くんの熱く滾ったそれを感じる。
胸が締め付けられるように苦しくなってしまった。
理性的で、とても強くて。
承太郎と並ぶと線が細く、華奢に見えてしまうけれど、こうしてわたしを組み敷く彼はとても大きくて、欲を剥き出しにして舌なめずりをしている。
いつもは清廉な雰囲気すら纏っている花京院くんだって、ただの男子高校生なのだ。
そう思うとどうしようもなく彼が愛おしくなって、胸の奥がきゅんと痺れる。
なぜだか無性に、その体に縋りつきたくなった。

「……か、花京院くん、」

掌をきゅっと握り締め、覚悟を決める。
緊張しながら名前を呼ぶと、さっきまでは違う声色にどうかしたのかと花京院くんが首を傾げた。
瑪瑙色の髪が揺れて、ぼんやりした視界のなか漠然ときれだなと見惚れる。
頬もわたし程ではないにせよ、はっきりと紅潮していて、それだけで胸が苦しくなるような愛しさが増した。
深呼吸して、恐る恐る口を開く。

「あ、あの……逃げない、から。腕の、ほどいて。……花京院くんに触れたい、……抱きつきたい」

恥ずかしさの余り、最後の辺りは口の中でごにょごにょと呟くようなものだったけれど、こんなに近くにいた彼にはちゃんと聞こえているはずだ。
熱く火照った顔を持て余しながら、返事を待つ。
恥ずかしくてどうにかなりそうだというのに、……花京院くんは黙ったまま。
反応のない花京院くんに、不明瞭な視界のなか、もやもやと不安が募った。
どうしよう、もしかして彼はわたしに触れたくなかったのだろうか。
だからスタンドを使って、こうしてわたしばかり追い詰めるように昂ぶらせていたのだろうか。
そんな愚かなことまで考えはじめて泣きたくなってきたところで、ふいにぎゅっと抱き締められた。
突然のことに小さく声が漏れる。
同時に腕の拘束も解かれた。
おずおずと背に手を回しながら、いつの間にか涙の止まっていた目でぱちぱちと瞬きをする。
視界はなんとかクリアになったものの、抱きすくめられているせいで彼の表情を伺うことは出来ない。

「……花京院くん?」
「……ああ、もう。……なまえ、あまりそう僕を煽らないでくれないか」
「え、あおるって、なにが、」
「そんなに可愛いことを言わないでくれってことさ」

それってどういうこと、と重ねて問おうとしたところで、両腕で強く抱き締められたまま、ハイエロファントの触脚で秘部を――重なりあった襞の間を、ぬるぬると上下に撫でられた。
言葉はすぐに甘ったるい喘ぎ声に変わり果てる。
秘裂や膣口の浅いところを何度もぐちぐちと擦られ、たまに敏感な突起もつつかれる。
頭のなかがとろけてしまうほど途方もなく気持ちが良くて、びくびくっと腰が跳ねた。
けれど強く抱き締められ、下半身は触脚で拘束されているせいで、その揺れも抑え込まれてしまう。

わたしをきつく抱く二本の腕とたくさんの触脚を感じながら、ぐちゃぐちゃに濡れた秘所をたっぷりとなぞられ、擦られる。
他の人じゃ絶対に体験できない気持ち良さに、体の中心、芯のようなものがじわじわと痺れるような感覚がした。
溶けてしまう。
弄られている粘膜から、どろどろになってしまうような……自分が自分じゃなくなってしまうような恐怖感と切迫感、そしてそんな怖さを塗り潰してしまうくらいに大きな快感が全身を渦巻いた。
夢中で大きな背中を掻き抱く。

「ひゃあうっ、んっ、花京院くんっ、わたし、っ、……い、いっちゃう、」
「いいよ、」
「ふ、っああぁ……花京院くんっ、あ、かきょぉい、くんっ、」

譫言のように何度も名前を呼び続ける。
ぎゅうっとしがみ付いて達した。
視界が、意識が白む。
興奮しているのを隠そうともしない花京院くんの荒い息が耳にかかって、それにすら快感が増してしまい、肩が揺れた。

「――っ、はあっ、は、あ、っ、」

はあはあと必死で呼吸を繰り返す。
慰めるように、こぼれた涙を拭うように、わたしの頬をハイエロファントの触脚がすりすりと撫でた。
花京院くんの分身でもあるそれに頬を寄せ、荒い息のまま目を閉じる。
頭の中が真っ白で何も考えられない。
激しい快楽の後の余韻に微睡んで、ぐったりと意識の遠のくような不思議な感覚に身を任せてしまいたい、そう思う。
だけど。
わたしを抱き締めて愛おしそうに見つめてくる彼に応えるためにも、ここで意識を手放す訳にはいかない。
まったく、やれやれだ。
明日が休みで良かった。
明日は一日ベッドでぐったりしているかもしれない。

必死に呼吸を整えながら、つむっていた目を開く。
眼前でたくさんの愛情を込めてわたしの名前を呼ぶ花京院くんに、わたしもたっぷりの愛しさを覚えながら手を伸ばして微笑んだ。

ハロー、下心ですが

(2015.04.10)
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