揺れる。揺さぶられる。
どうしてこんなことに、となまえは殆ど手放しつつある理性でぼんやりと思考する。
奪われた視界のなか、なまえは首に回された掌の冷たい熱に、またふるりと抵抗と呼ぶには甘美すぎる身悶えを示した。

「っは、お前もなかなか悦んでいるようだな、」
「っ、ちが、違いますっ……も、おやめくださ、ああっ……!」

耳元で嬲られる言葉の数々、なまえは髪を振り乱して否応がなく与えられる喜悦に耐えようとした。
ギリギリと握り締めた手指を残酷なまでに優しくほどかれ、ぞわりと戦慄を覚えるほど軽やかに口付けられる。

この悪夢のような行為が始まり、どれだけ時間が経ったか。
くすくすと泥のように転がる低い笑い声が占領する大きな寝台の上、そこに座する仕えるべき主。
無理やり乗せられた体の上、背後から抱え上げられ、座るような格好にさせられていた。
その体勢で突き立てられた熱く猛った剛直に、なまえは涙をぼろぼろとこぼした。
しかしその雫が伝い落ちることはなく、視界を奪うために結ばれた布に吸い込まれて消える。

「やっ、やめ、っ、テレンスっ……見ないでぇっ……!」

背後から逞しい腕に拘束され膣孔を犯されながら、彼女は目の前に茫洋と立ち尽くす自分の恋人に、ふるえる唇をわななかせながら懇願した。
この行為が始まってから幾度となく見ないでと哀願し続けていたにも関わらず、ほんの数メートル離れたそこから彼の気配が消えることはなく。
ギリッと強く噛み締めた歯の音すら聞こえる距離に、なまえは胸をどす黒い泥濘で塗り潰されるような絶望と虚無感を覚えた。

「ひ、うっ……! ぅああっ、くっ、っ……!」

ぐちゅぐちゅと粘性を帯びた水音、そして肉のぶつかる音。
恋人以外を知らなかった身は、背後から良いように持ち上げられ落とされる強すぎる律動に、気を失わんばかりだった。
常日頃から冷静で、からかわれても軽くあしらう度量とそつのない所作を持ち合わせていたなまえが、自身の恋人の腕の中では甘く蕩けるような笑みを浮かべていたのがそれほど物珍しかったのか。
面白い玩具を見付けたと思ったのだろうか――。
テレンスと二人、恋人らしい戯れに微睡んでいたほんの数刻前までが、最早恐ろしく遠い過去のことのように感じられてしまい、なまえはまた涙を溢れさせた。

背後から膝裏に手を掛け、大きく開脚させられ揺さぶられる。
前にいる己れの恋人に、淫らな音を立てながら抽送を繰り返す接合部を見せ付けるような姿勢に、なまえはやわらかな唇をきつく噛み締めながらがくがくとその身をふるわせた。

「っふ、まさかこれほど極上な女を手に入れていたとはな、我が執事ながらその審美眼には感服するぞ」
「っ……DIO、様……」
「どうしたテレンス、そんな顔をして。お前の女のこんな姿をこうして観賞する機会もそうないだろう、楽しめ」

平常ならば嫌味ったらしい程に落ち着き払ったテレンスの怜悧な声が、DIOにそう語りかけられ、揺れる。
ただ、そこに立っていろと命じられたままそれを順守する彼を誰が責められるだろうかと、なまえは熱く湿った吐息をこぼしながら考えた。
全てを蹂躙し支配する偉大な我らが主に、どうして抗うことが出来るだろうか。
そう、責めるべきは彼ではない、

「なまえ、」
「ひっ、やだ、っ、や……く、っう、はあっ」

主の声はまるでなまえという人格をどろどろに溶かしてしまうように恐ろしく甘ったるく、まるで耳から体内に侵入して脳までぐちゃぐちゃに犯されるかのようだった。
大きすぎる剛直に蜜壁を擦り上げられ、はしたなく愉悦に咽んだ女の嬌声が迸る。
ざわりと鳥肌が立った。
しかしそれは嫌悪から来るものなどでは決してなく、寧ろ、

「あ、ああっ、やっ、だめ、ひぅっ、あっ、DIOさま、DIOさまぁっ」

ああ、浅ましい。
わたしの息の根を誰か止めて。
心酔し敬愛する主に抱かれ、歓喜にざわめく細胞の一つ一つをおぞましく思いながら、なまえは否応がなしに追い立てられた絶頂の予感に、一際大きく白い背を反らせた。
その反応に、背後から主の上機嫌な笑みが降る。

「くくっ、そうだなまえよ、一つ良いことを思い付いた。絶頂に至る際にはこの覆いを取ってやろうではないか。達する瞬間は愛しい恋人の顔を見ていたいだろう?」

部下思いの優しい上司だと暗鬱に微笑みながらDIOは囁いた。
やめてください、お許しくださいと譫言のように繰り返す口に無理やり指を突っ込み、顔を逸らさぬよう顎を固定させながら、律動を速めた。
主のその恐ろしい言葉に、なまえの表情はいよいよ絶望を飲み込んでしまったような色に塗り潰される。
何度も最奥を突かれ、絶頂の熱い波がそこまで押し寄せているのを彼女は痛いほどに感じていた。
灼熱の肉塊が奥深く、抉るように子宮口を嬲る。
抵抗など無意味なものとなる絶対的な悦楽に、なまえは殆ど悲鳴のような嬌声を上げた。

結んでいた目隠しを解く、しゅるりと頭の後ろで緩められた衣擦れの音を鼓膜が拾う。
なまえはゆるやかに首を振ってぐったりと拒否を示した。
恐ろしかった、彼の表情を、眼光の色を知ることが。
彼が自分を見る瞳に浮かんでいるのは、愛する人を奪われた嫉妬か、浅ましく身悶える彼女への侮蔑か、それとも。
――縛めから開放された目を、容赦なく襲う光。
なまえの喉から悲哀にまみれた嗚咽がこぼれ落ち、そして。

fallen sound asleep

(2015.01.07)
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