ごしごし
ごしごし

何度目をこすった所で、私の目は彼を捉えて、しっかりとその存在を確認させた。けれど私はそれを認めたくなくてまた目をこする。まばたきも何度か。

「なまえちゃん、どうしたの?」
「え!い、いやなんでも…」

秋ちゃんの問いを不自然にはぐらかせて私はまた彼を見る。秋ちゃんが不思議そうな顔をしていたけれど、スルーさせてもらうことにした。

「お前、俺が見えるんだな」

きっと彼女は信じない。私だって、信じたくはないのだ。今私に話しかけてきた吹雪くんの姿が半透明であることなんて。



「…」
「おいおい、そんなにカタくなるなよ。穫って食いやしねえからよ」

いや無理だろ。胸中でそんなツッコミをし、ちらと彼の方に目線をやる。確実に、吹雪くんだ。今、エイリア学園のキャプテンの技をまともにくらって寝込んでいる吹雪くんだ。まさか、考えたくはないが

「…吹雪くん!」
「あ?」
「今ならまだ間に合うよ!こんなとこにいないで部屋に戻って!?じゃないと本当に死んじゃうよ!本でよくあるじゃない、幽体離脱だよそれまだ死んでないよ!」

彼は魂の姿でみんなの所をまわって最期の挨拶をしているんじゃなかろうか、もしそうなんだとしたら早く身体に戻ってもらわないと本当に危険だ。そう思い声を荒げたが当の本人はきょとんとこちらを見つめ、やがて「ちげえよ」と笑い出した。

「おれはアツヤ。吹雪士郎の弟だ」
「おとうと…」

思わぬ答えに今度は私がきょとんとする番だ。弟、といえばついさっき、監督がなにかいっていなかったか。弟、吹雪くんの弟…『吹雪くんにはアツヤくんという双子の弟がいたの』、監督の声が蘇る。そう、でも彼の家族は雪崩で、あれ、じゃあ目の前の半透明は。

「あ、ああああの、じゃあいわゆる、ゆ、ゆ、ゆうれ」
「いわゆる幽霊ってやつだな」

あぎゃー!ばたーん!
私は卒倒した。



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