はっと目を覚ますと窓の外はすっかり明るくて、跳び起きた。ジョーイさんがそれに気付いてこちらに来る。

「昨日はお疲れ様。メリープもすっかり良くなったわ!」
「は、メリープ…?」
「あなたが連れてきたポケモンのことよ」
「あ、そ、そうですか…よかった!」

そうか、メリープっていうんだ。
横ではチルットが嬉しそうに飛び回っている。早速ジョーイさんがメリープを連れてきてくれた。

「あの、この子…私のじゃないんです。37番道路で倒れてて…」
「あら、そうだったの?」

ジョーイさんがメリープを地面に下ろす。四足でしっかりと立つメリープはすっかり健康といった顔つきだ。ゆっくりとこちらに近づいて、足元にすりよってきた。

「うわっ?」
「きっと助けてくれてありがとうって言ってるのね。私からもお礼をいいます、野生のポケモンを助けてくれてありがとう!」

ジョーイさんがセンターの仕事に戻った後、おそるおそる手を差し出すと、メリープは鼻を押し付けてきた。くすぐったくて、笑ってしまう。もしかしたらという期待を込めて、メリープの丸い瞳をみつめる。

「もしよかったら、うちのこになりませんか?」

メリープは手から顔を上げると、嬉しそうに一度鳴いた。




「…っていうわけでね、メリープが仲間になったんだー」
<メリープ…なんだか名前さんの好きそうなポケモンですねえ!>
「ふふ、そう?まあ好きだけどね!それでキキョウとヒワダのジムに行ってね、もちろん倒したよ!なんたって飛行と電気がいるからね。それで、コガネに戻ってきたのはいいんだけどノーマルタイプでしょ?どうしようかと…」

メリープが仲間に加わってから三日たった。

ポケギアの画面にうつるのはタクヤだ。トキワジムのトレーナーの中で最も仲の良い人で、よく相談にのったりのられたりする。エリートトレーナーだけあってポケモンに詳しく、頼りになる友人だ。

「あ、…そういえばどうしたの?いつもならこの時間、電話なんか出れないでしょう。ジムは?」
<わかってるのに電話かけてきたんですね!?…今グリーンさんが取り込み中なんで>
「ふうん」

どうせまたどっかほっつきあるいてるんでしょう?…シロガネヤマとか。
憎まれ口をのみこんで、興味のなさそうな返事を返すだけで精いっぱいだった。


「そう、それで、すこしレベルあげたから一度コガネジムに挑戦しに行こうと思うんだけどね」
<名前さん>

真面目な声で名前を呼ばれて言葉につまる。一瞬話がとぎれると、タクヤはそのまま話し出した。

<グリーンさんは、名前さんが思ってるより名前さんのことが好きです>
「な、なに…急に」
<いまグリーンさんは挑戦者とバトルしてるんです。挑戦者とはあきらかなレベル差があるのに、挑戦者はまだ二匹目、グリーンさんはもう三匹目…今カイリキーがやられました。今四匹目です。>
「!」

一度だけ、グリーンのバトルを見せてもらったことがある。ジムに遊びに行った時にたまたま挑戦者が来たのだ。タイプの相性をものともしない的確な指示と素早さ、ポケモン自体の攻撃の重さ、彼を破るのは簡単なことではない、タイプの相性もろくに覚えていない私でさえそう思ったのを覚えている。

<名前さん、戻ってきてください。どうして急にそっちまで行ったのか、全部話してください>
「…」
<最近のグリーンさん、ずっと考え事ばかりして、ほんと笑っちゃうほど集中できてないんですよ、今も。多分、名前さんのこと考えてるんです>
「ねえ、タクヤ。切るね」
<えっ!?ちょ、名前さ>

終了ボタンを長押しして、通話ごと電源を切る。真っ暗になったポケギアをポケットに押し込んでチルットをボールから出した。

「チルット、急にごめんね。すこし遠いんだけどトキワシティまでお願いできる?」

チルットは体全体を伸ばして、二回ほどゆっくり羽ばたく。準備運動完了とばかりに頭の上を旋回したので、チルットの足を掴んだ。

「よろしくね!」

その小さな身体のどこにこれだけのチカラがあるのか、私の体はすぐに風の中へと飛び込んでいった。








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