マサラに風が吹く。
草原でお昼寝をしている時に感じるような穏やかな風ではなくて、一回だけビュウと強く風が吹く。その風を受けて、私はああやっぱりなと確信し、納得した。同時に寂しくもなった。

雨風に曝されて随分痛んだ看板を眺めながら、何年か前のあの日もこんな風が吹いたのを思い出す。

「やっほ」
「名前」

俯いたまま町から歩いてきたレッドに、陽気に声をかけると、彼は勢いよく顔をあげた。驚いた顔でこぼした私の名前には「そうだよ」と返しておいた。


「どうしたの、そんな所で」
「お見送りしようと思って。違う?」
「違わない、けど」


どうしてわかったの、という問いかけに私は苦笑いするしかなかった。どうしてと言われても、なんとなくそんな気がしただけだったからだ。
ああでも、理由づけをするならば、


「レッドの目が、燃えてたから」


レッドがしばらくの間帰ってこなかった理由と、急に帰ってきた理由は、グリーンから聞いていた。チャンピオンの座を、最強の座を手にしてみれば、何を追いかければ良いのかすっかりわからなくなってしまって、ただただガムシャラに強さを求めていた事。
そしてジョウトの少年に敗れて、山を降りた事。グリーンの憶測の部分も多いだろうが、大筋間違っちゃいないだろう。
だから、帰ってきて初めてレッドを見た時は驚いたのだ。守ってきた最強の座を、年下のトレーナーに奪われたのだから、それはそれは落ち込んでいるだろうと思っていたのだ。

けれど、彼の目は死んでいなかった。むしろ、いつかのあの日に旅立った時よりも輝いていたのではないだろうか。(当時の記憶は随分薄れてしまい、確信を持てないところがもどかしい!)


「だから近々行くんだろーなって」
「そっか」


私の前を横切って、一歩、二歩、ああそれ以上行ったらマサラから出ちゃう、五歩、そこで立ち止まる。
丁度マサラから出て一歩目のところでレッドは振り向いた。


「見送りありがとうね」


うん、バイバイ、またね。そう返したけれど、彼のリザードンの翼が巻き起こした風に飲み込まれてしまった。声は届いただろうか。




はじまりの風
(永遠に凪ぐことのない)



*






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