「シジマさんやーい」

自分の声すら水音にかき消されるこの空間では、この声も彼には届いてないだろう。証拠に彼は身動ぎさえしない。
室内につくられた滝が珍しいタンバジムのリーダー、シジマさんは大抵いつも滝に打たれている。海に囲まれたタンバシティでは試行錯誤をしてトレーニングしないとな!というのは彼の口癖みたいなものだ。

「チッ…すいませーん!滝、止めてくださーい!」

以前、不用意に肩を叩いてプロレス技をかけられた事がある以上、下手に動く事はしたくない。上にいるトレーナーさんに声をかけると、手を大きく振ってくれた。すぐに仕掛けが動き出し、水の柱が細くなっていく。


「いやースマンな!どうも集中しちまってよ!」
「毎回勘弁してくださいよ」

ガハハとシジマさんは豪快に笑う。馬鹿でかい笑い声はまだいいが、バシバシと背中を叩くのは止めてほしい…鍛えてるだけあって凄いチカラなんだから。トレーニングの後は腹が減るなあ、と大きなお握りをもりもり食べながらシジマさんは思い出したように声をあげた。

「そいや名前、いつこっち来たんだ?」
「昨日着いたばかりです。挨拶しに行ったんですけど…シジマさん、べろんべろんだったんで覚えてないんですね」
「はっはっはっ!酒はいいぞぉ!じゃあ今日はお前ウチで飯くってけ!あいつも喜ぶだろ!」

あいつ、とは奥さんのことだ。昨夜挨拶に行ったとき、彼女におんなじ事を言われたのを思い出す。

「ぜひお願いします」

二回も誘われれば断るのも申し訳ない。そう思って頭を下げた。瞬間、私は気がついてしまった。

(あれ、てことは酒の相手しなきゃなの?べろんべろんのシジマさんの相手をするの?)

そして思う。
断ればよかった、と…。




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