ぴりりり、ぴりりり

またか、とポケギアを開くとそこには『グリーン』と表示されている。家を出てから早四日、着信が来始めたのは二日前。それを思うとなんだか無性に腹が立って、今回の着信も無視することにした。

「気付くのが遅いよ。ね、チルット」
まあ、無事に下山したってことか。それはまあよかったよかった。

以前ジョウトからのお土産としてグリーンに貰ったチルットを撫でる。チルットはまったくだよ、とでも言うように尻尾をゆらした。その反応に思わず笑い、ポケギアを閉じてポケットに戻す。

家を出た後、まっすぐオ―キド博士のところにいって旅にでる事を伝えた。博士は驚いたようだったけど、すぐに笑顔になった。

『そうかそうか、名前はもうオレンジバッチまでをもっとったな。ヤマブキにいくのかね?』
『いいえ、観光もかねてジョウトに行こうと思って』
『おや…』

ふむ、と顎に手を当ててすこし考えると、ならばと船のチケットを白衣から取り出す。

『船でアサギシティに向かい、そこからコガネシティに行くといい。バッチを集めるトレーナー達は大体キキョウからジム制覇を始めるんじゃが、コガネシティをチルットに覚えさせておいたほうが後々便利じゃろ?』




「ここがコガネシティかあ…」

船を降り、アサギシティでオ―キド博士の知り合いの助手という人に会った。その人にコガネシティまでそらをとぶで送ってもらい、降り立った瞬間に出た言葉がこれだ。

人が多く、ずいぶんと活気づいた街で、初めてのジョウトにうきうきしていた私は助手さんと別れた後、さっそく街を散策しはじめた。ラジオ塔、百貨店、すこし奥にいってサイクリングショップ。占い師の家の近くにある地下通路を通ってパチンコ屋。

「はあはあ…、トレーナーも多いし、マサラタウンとは全然違う」

トレーナーとの対戦をさけるために地下通路を一気に駆け抜けたせいで荒くなった息を整えながら地上を歩く。パチンコ屋を通りすぎたところで、声をかけられた。

「あれ、名前ちゃんやん?」
「ん?」

振り向くとちょっと癖毛のはいった男の人がいた。昔よくオ―キド博士のところに来てた人、そう、覚えてる。

「マサキさん?」

「おーおー、久しぶりやなあ!なに、どしたん?」
「いやいやいや、どしたんはこっちですよ。実家こっちなんですか?」
「うんすぐそこ。あ、今手持ちいっぱい?」
「いや、空いてますけど」
「丁度ええなあ!ちょっときてやこっちこっち」

マサキさんの話し方は独特で、なにより早い。水が流れるように話すものだからいまいち理解しないうちに、マサキさんにひっぱられてしまった。あっというまにマサキさんの家に着く。

「このコ…」
「いやーな、機械の調整しとったらどこからか突然送られてきたんや。わいあんま外出せえへんし、名前ちゃん…よかったらこのコ引き取ってくれへん?」

マサキさんが一旦家に入り、出てきたときに腕に抱かれていたのはイーブイだった。まんまるの目が私をじっと見つめる。そっと手を伸ばすと、イーブイはばたばたと四肢を動かしてマサキさんの腕から逃れ、私の腕に飛び込んできた。

「あはは、イーブイは名前ちゃん好きって。もう決定、嫌とは言えないやろ?かわいがってあげてな」

ふわふわもこもこの毛を撫でるとイーブイは気持ち良さそうに耳をゆらした。マサキさんはニコニコと見ていたが、はっと体を硬直させると、突然走りだした。

「そういえばウツギ博士ん所の機械見に行かなあかんかったんや!ごめんな名前ちゃん、イーブイのことよろしくたのむわ!」

後に残された私はしばらくマサキさんの飛んで行った方向をみつめて、それからイーブイを見る。イーブイも私のほうを見てうれしそうに鳴いた。

「…これから、よろしくね?」

可愛さに思わず顔がほころぶ。マサキさんの家を後にして、休憩もかねて海の近くでチルットとイーブイを遊ばせることにした。同じくらいの大きさの二匹は転がるように走ってはじゃれついて、楽しそうだ。それを見ていると突然ポケギアが鳴った。着信だ。

「はい、もしもし」
<やーっとつながった!おいおまえ今どこにいるんだよ?ずっと電話つながらなかっただろ!>
「げっ」

そういえば、ちらと見た画面にはグリーンの名前があったんだ。すっかり油断していた。もう二日くらいは電話を取る気はなかったのに。






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