「ふっかふかー」
「お気に召したかい?」
「まあまあね」
「それはそれは、手厳しい」

キングサイズのベッドの上を跳ね回りながら、ダイゴへ評価を下す。彼は困ったように苦笑した。もちろん『まあまあ』というのが本当の評価ではなく、星で表すならば星五つ、満点だ。彼もそれがわかっているから何も言わない。

さて、うら若き男女がホテルの一室で…というシチュエーションから見ると閲覧禁止者が出そうだが決していかがわしい行為をしようとここにいるわけではない。久しぶりにホウエンへ赴いた私にダイゴが泊まるホテルを用意してくれたらしく、たった今案内されてきたばかりなのだ。

「本当に久しぶりだね。いつまでいるんだい?」
「しばらくいるつもり。と思ったけどこんな部屋用意されちゃあ長居はできないなあ」
「おや、不満かい?」
「むしろ大満足!金銭的な問題だよ。スイートなんて何日も泊まってられないでしょ」

きょとん、とダイゴが目を丸くした。首を傾げて、見当がつかない程難易度の高い問題を解こうとするかのようにクエスチョンマークを頭上に浮かべる。お坊ちゃんの彼の考えは簡単に予想できたが、私は親切にも答えが出るのを待った。

「僕が用意したんだから、僕が持つに決まってるだろう」
「予想通りの答えをありがとう。1000円くらいなら受け取るけどね、何万にもなるんだからあんたは良くても私は良くない」
「小さいなあ」
「これが普通です」

柔らかい、けれど絶妙な固さを持って私を包みこんでくれるベッドから泣く泣く身を起こして足を床に降ろす。ダイゴはよくわからないと困惑の表情だ。

「じゃあ明日からは僕の家でどうだろう。そこなら気兼ねなく使えるだろう?」
「あら、赤頭巾になるのは御免だけど」
「そんな奴に見えるかい?」
「いーえ全然」

だろう、とダイゴは微笑むと備え付けのメモにさらさらとペンを走らせ、私にそれを手渡した。細く角張った字体で、住所と簡単な地図が書かれている。いつかに数回訪れた事があるが正直記憶に残っていない為助かった。綺麗に四つ折りにすると、ダイゴが背を向け、廊下へ続くドアへと歩き出す。

「夕方以降ならいるからね。それじゃあごゆっくり」
「ありがとね。また明日」

礼を言い、オートロックのガチャリという音を聞き届けてから私は背中から倒れるようにベッドへ身を沈めた。先程折り畳んだばかりのメモ用紙を開いて、並んだ文字を目で追う。

「男って普通もっと汚い字でしょうに」





ガチャリ、と後ろで鍵のかかる音がした。ロックされたのを確認して、ゆっくりとその場を離れる。エレベーターに乗り込んだ所で、抑えていた笑いを解放した。

「ふ、はは」

『あら、赤頭巾になるのは御免だけど』
『そんな奴に見えるかい?』
『いーえ全然』

先程の会話が頭の中で彼女の姿と共に再生される。彼女はいつも屈託のない笑顔を僕にむけてくれている。その笑顔は僕が絶対に安全だと認めているなによりの証拠だ。また笑いがこみあげてくる。

「買いかぶりすぎだよ」

静かに呟いたはずの言葉は思いのほか、狭い空間の中を響いた。









10000ヒットリクエスト:真美さん



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