シロガネヤマはいつも大体雪が降っている。今日も例にもれず、まるで寄るもの全てを拒絶するかのようにビュウビュウと強く吹き荒れていた。

「はあああ寒い寒い寒い」
「キュウ…」

私はそんなシロガネヤマをただひたすら登っていた。
もちろん、レッドに会うためだ。
私の後ろをウインディがその大きな身体に合わない歩調でちょこちょことついてくる。

「ごめんねーウインディ。乗ったら楽につくんだけど、そうもいかないからさ」
「がうっ」

私は腕に余るほどの大きな箱を大事に抱きしめて少し歩を速くした。やがて見えてくる洞窟に入り、長く不安定な坂をなんとか登りきって暗い空間から抜け出す。容赦なく襲う風に顔を歪めつつ、視線を遠くにやると、見えた。

「…久しぶり。何しに来たの」
「何しに来た、じゃなあい!」

赤い帽子が印象的な私の大好きな人。私は彼に駆け寄ると持っていた箱を預ける。

「今日は何日ですか!」
「ええと…」
「あーもうこれだから引き篭もりは!いい?12月25日、クリスマスだよ!」
「…もうそんな季節か」

普段から雪に晒されているこの場所では季節感覚も崩れるらしい。予想はしていたがガックリと肩を落とした。場所をレッドの居住スペース(といっても洞窟の中なのだが)へと移し、暖をとる。

「で、この箱は」
「クリスマスケーキ!崩れないようにゆっくり持ってきたけど、どうなってるか…あとウインディ!」

がうっとウインディが近くへ寄ってきて、その場に伏せた。ふかふかの毛の中に手を突っ込んで、中に埋まっているものを引きずり出す。

「あと、まあ肉とか肉とか。ウインディに温めて貰ってたの。ポケモン達の分もあるよ!ちょっと量少ないけど」

ラップに巻かれた鶏肉や唐揚げを取り出して並べると、レッドの顔がほころんだ。

「だからいつもみたいにウインディに乗ってこなかったのか」
「ケーキもあったしね」
「寒かっただろ」

身も凍る程だったわ!と返すとレッドは声を殺して笑った。




「名前」

私達もレッドのポケモン達もお腹が充分満たされて(さすがにカビゴンには少し我慢してもらったが)、リザードンとウインディの暖かさに包まれた私がうとうととしかかったころ、不意に名前を呼ばれた。落ちそうになる瞼を開けて、横にいるレッドを見る。レッドは私を見ず、炎に照らされた天井を見つめていた。

「ありがとう」
「…うん」

口元を緩ませて、呟くように言われたお礼に胸が嬉しさで満たされる。しかし次の瞬間その気持ちは一気にかき消された。

「でも来年はこなくていいよ」

「…!!!え、なななんで!」
「え、」

嫌だったのかと掴みかかるくらいの勢いで問うとレッドの目が丸くなった。私の目を何秒か見つめ、何かに気づいたように「ああ」と声をだす。

「でも準備はしといて。家で」
「は?」

レッドが楽しげに目を細める。言葉の意味をやっと理解した私は先程の数倍、嬉しさが満ち溢れ、その気持ちを我慢しきれずにレッドに思い切り抱きついた。


「来年は俺が行くから。待ってて」




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