だらり、と毛布からはみ出した腕。秋も終盤だというのに、部屋着として使用している浴衣一枚という軽装の名前を見やり、ため息をついた。

「…もうすぐ冬だろう」
「ブースターがいるから大丈夫だもん」

名前はソファの下で寝転がるブースターを抱き寄せると、そのまま毛布へ招き入れる。

「寒いなら着ればいいじゃないか。いつもその上からなにか羽織ってるだろう?」
「マツバうるさーい」
「…」

ああもう、と頭を掻く。
どうしてこの子はこうも無防備なんだろう!幼い頃から身近にいたからか、彼女はどうにも警戒心がなくていけない。そう思うと、近すぎる関係を続けていた過去の自分を絞め殺したい気持ちになった。

袖からはみ出た腕の白さも、ソファの肘掛けの上で流れを作る髪の毛も、毛布がかたどる身体のラインも。
すぐ目の前にあるのに。

(手を出したらきっと)


「マツバ…」
「!…な、なに?」

心臓が大きく跳ねた。
思わず視線を大きくずらして応じる。

「お腹減った」

「…自分でつくりなよ」
「布団から出たくないさむい」
「そんな格好でいるからだろう」

先程からすっかり進まなくなってしまった文庫本を閉じ、しっかりと名前を見据える。説教でもしてやろうかと口を開いた所でばちりと目があった。ぐ、と言葉につまる。

「…ああもう、わかったよ」

くす、と笑われてしまえばすっかりそんな気も失せて、のろのろとキッチンへと向かうのだった。











(…なにもわかってないんだね、何年も一緒にいるくせに)

ちらちらと見えるマツバの背中を視界にいれながら溜め息をつく。一番そそられるのは浴衣ってマツバが言ってたのに、頬をふくらませてつぶやけばブースターがきゅうと鳴いた。

(マツバのばーか!お前の気持ちはハヤトから筒抜けなんだよう!)

だからこそ、こうして遠回しに誘っているのだ。これで何回目だろうか数えたところでふつふつとぶつけようのない怒りが増すばかり。

「…もう帰る!いくよブースター!」
「はあ!?」

キッチンからマツバの声が聞こえたが、無視して毛布を被ったまま窓から飛び出した。




*






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