〈よっ!名前、お前どうせ暇だろ?今ジョウトに来てるからさ、ちょっとアサギまで来いよ〉 「はい?」 〈ツー、ツー〉 電話を取った途端これだ。 もう機械音しか鳴らさないポケギアを閉じて、大きな溜め息をついた。どうかしたのかとこちらを見上げるポポッコを見て思わず涙ぐむ。 「ポポちゃん…もうやだこいつ…」 丸い身体を抱きしめると、ポポッコはその小さな手でよしよしと私の体を撫でた。 たった今かかってきた電話の主の名前をグリーンという。チャンピオンに輝いた経歴をもつ、トキワシティのジムリーダーである。 「よっ」 「ねえ私ジョウトリーグ挑戦する一歩手前だったんだけど」 「あいつら年中暇なんだからいつでも行けるだろ」 ってかはらへったー飯食おう。 ポケモンセンターの前で立っていた彼を睨みつけるがその効果は薄いようだ。どこまでも自由に振る舞う彼に、しびれごなでもふっかけてやろうかと思いながらついて行く。 「私そっちがいい」 「なんで」 「よっかかれるから」 近くの食堂へと入り左隅のボックス席に座った。 休日平日関係なくいつも混んでいるこの食堂だが、ピークの昼時をやや外しているからか空席が目立つ。運ばれてきた水を一口含んでメニューを眺めた。 「珍しいね。グリーンがジョウトに来るなんてさ」 「じーさんからたまには図鑑に協力しろってどやされてさ…こないだ塩食ったから味噌かな」 「あージョウト『かわいいポケモン』多いよ!私あんかけ焼きそばー」 「すいません味噌ラーメンとあんかけ焼きそば」 カウンターの向こうから声が返ってくる。グリーンはメニューを壁側に立てかけて口を尖らせた。 「名前さん、もう忘れてくれませんかね」 「えーナナミさんがまだ本棚にあるって教えてくれたけど!」 うげえ、顔を赤くして机に突っ伏す。ジョウトに来る前、マサラタウンに遊びに行った際グリーンの部屋で『かわいいポケモン』なる雑誌を見つけた時のことを思い出して、私は思わず噴き出した。 「イーブイ特集だったもんね…おっと!図鑑集めるってことはジムは?」 「このやろう…閉めて申し込み制にした」 飛んできた拳をかわして話を変える。グリーンの口はすっかりへの字になっていて、次は恐らく拳どころじゃ済まなさそうだ。 「フーン…まあ頑張ってよ」 「なにいってんの」 「は?あ、ありがとうございます」 注文したものが運ばれてくる。割り箸をグリーンに渡してやり、私も箸を割ってあんかけ焼きそばに手をつけようとした。グリーンが口を開く。 「ジョウトリーグ挑戦は延期、名前も図鑑集め手伝えよ。ハイ決定ー」 いただきます、の言葉がでなかった。 「は?な、なんで!」 「(ズズズズーッモグモグ)…(ズズズッ)あーうめぇ…」 「食べるのをやめろーッ!!」 その理由を教えてやろうか (一緒にいたいからだなんて、お前は笑うかな) -------- お気づきかと思いますが ボックス席なんてあの食堂にありません 捏造しました(^O^) |