終焉 | ナノ



チリ、と視界で星が弾けた。
我々水棲系の魂現が発するのは雨の降る直前のような濃密な水気を孕んだ気配で、同じだけの力を持つ者がいればそれだけでひどく心地よく感じる。目の前で自作のビスケットを齧りながら本を読んでいる妹からも同じ気配がしていた。彼女が中間種であり、半分は陸上種であるがゆえに幾らかその水気は薄いが、静謐で潤った空間に変わりはない、はずだった。

ーー高尾。
思い至った瞬間にまた視界の端で星が弾ける。これは熱砂を巻き上げる風の匂い、果てしない砂漠の、乾いた空気。巨大な猛禽の翼に叩かれて、巻き起こる灼熱の旋風。

「なまえ……」

「兄さん?」

齧りかけのビスケットを口から離し、首を傾げてみせる。自分でもわかるほど気配が波立ち、止めることができない。荒れ狂う水と熱風がぶつかり合って視界いっぱいに星が瞬く。妹が小さく息を呑んだ。胸ポケットから携帯電話を取り出し、着信履歴の一番上を呼び出す。数コールの後、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。いつもの文句も前置きもなく、ただ一言だけ相手に告げる。

「今すぐ、俺に殴られに来い」



***



兄と男が真正面から向かい合い、互いに一言も交わさず睨み合っている。重種である兄に言葉を封じられたわたしは、口元を押さえたまま立ち尽くすしかない。兄は何時になく不機嫌で、そう、怒りさえしている。兄のこんな怒りを、わたしは未だ見たことがなかった。相対する男は笑っている。細められた黒い瞳の中で琥珀色の輝きが踊り狂っているようだ。兄の怒りは波打ち、逆巻き、怒濤の勢いで男に迫る。微笑んで、躱しているように見えて、その実男は兄の怒りのその全てを身体で受け止めているのだった。男の周囲に光が爆ぜて、星のようだ。

「高尾、貴様、妹に何を仕込んだ」

「そうか、気付いちまったんだな」



(黒子のバスケ 161109)



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