周_01


アパルトメントの玄関で、宅配ピザの箱を受け取る。温かい箱を片手に、配達と会計をこなしたバイト少年――受け答えのたどたどしさや、こちらのフレンドリーさに零れたあどけなさから判断して、新人くんだろう――の背中に向かって、軽く手を振ってみた。階段を駆けおりるピザ屋さんがこちらを見ているとは思えないが、労働に対する感謝は礼儀のうちだ。
頬を張るような大気に顔をしかめつつ、自室のドアノブに手をかけたまま、隣室のドアを見遣る。
摩天楼に霞むどころか埋もれているアパルトメントは四階建てで、ここはその三階だ。各階には三部屋があり、私は三階の中央の部屋を借りていた。
脳をかき混ぜるような、鉄製の階段を駆けおりる音が消えた。排気ファンのモーター音と、明滅する街灯。地下鉄の震動が低く疼き、酔っ払いの奇声が聞こえてくる。
排熱の靄に覆われていてすら、街は静寂から程遠い。
隣室のドアから溢れてくる光はなく、壁とドアの隙間をすり抜けてくる音もなかった。
手のひらの上のピザ箱はあたたかい。
部屋に戻り、冷蔵庫からビールの缶を二本取り出す。ピザ箱をお盆代わりに缶ビールを載せ、私は再び冷気を浴びた。ピザ箱を片手に、施錠する。
そして、私は隣室のドアノブを握った。力を籠めるまでもなく、手の中の真鍮は回転し、ドアはゆっくりと私に寄りかかってくる。
隣室の住人はいつもこうだ。考え事をしていると――本人曰く、それが仕事なのだそうだ――電灯を点けることも夕食を採ることも眠ることも忘れるらしい。ついでに在宅時に鍵を締める習慣もないから、唐突にピザが食べたくなったけれどひとりで食べきれるか自信がない、といった私のような者には都合のよい胃袋、もとい、友人だ。

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