TEDDY_01


「違うって」

チャイムも鳴らさずに侵入してくる隣人は相変わらずで、隣人が抱えたピザ箱の山に苦笑するしかないおれも相変わらずだ。
でも、ひとつだけ、いつもと違うものがある。

「助けた」

おれはソファを指さした。そこには、膝を抱えて丸まっている、意識の混濁した少女がいる。

「助けた?」

シュウは大仰に目を瞠ってみせた。わざとらしいと互いに自覚した上でのやりとりは、奇妙で、滑稽で、胡散臭くて、穏やかだ。
つくりものの昼を戴いて、つくりものの掛け合いを愉しむ。街ぐるみで、人類とかいうカテゴリーに属するという動物ぐるみで、そんなものをいつから続けてきたのか。
不毛な問いは沈黙に呑まれ、かたどらせた笑みは隣人の瞳孔に吸いこまれる。

「そう。おれが、助けた」

キツネのような顔をして、シュウは笑った。

「感心、感心」
「だろ?」

上滑りな会話は、容易に見透かせる無関心さを放置して、歯車のごとく鼓膜を軋ませる。こわばりかけた光のその中で、チーズの匂いが鼻腔をくすぐった。

(TEDDY_01/end)

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