周_01
「人格を対価に悪魔と契約でも?」
今の私は身を屈めているから、普段は見下ろす隣人を上目遣いに窺った。問いかけてみると、テディは唇を歪ませる。まるで困っているかのようなそれに、私は眉をひそめた。テディの眼が宙を泳ぐ。
「どちらかといえば、悪魔から逃れる口実、かな」
ヘイゼルの目が少女を映した。少女の着ているぶかぶかのシャツは、テディのものだろうか。華奢を通り越して細いだけの四肢は、私と似た色の肌に覆われている。
その肌に、違和感を覚えた。
「言い寄られて困ってたとこに倒れてたんだよ、この子」
テディの声が、冷えきった部屋に私を引き戻す。
「言い寄られた?」
「そう、お偉方がご贔屓してる女王様に」
のんびりと、テディは笑った。
こいつが何をして稼いでいるのかは知らない。ただ、本人の言を信じるのなら――所属しているのが企業か研究機関かは判然としないが――何かの研究者らしい。だからといって、なぜこんな事態になっているのかと問われれば、答えに窮する。大方、大通りのあっち側にでもいたのだろうが――。
「それはまた、壮大な愛憎劇だな」
「おれ、関係ないんだけどねぇ」
おそらく、緊張感といったものの類は、総じてテディを避けている。
「たまたまそこにいたから巻きこまれたんだろ」
私はため息をつくと、ピザ箱を開けた。
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