「あ、今日もナマエちゃんや」
「信ちゃん!いらっしゃい〜」

ガサガサとビニール袋を抱えてやってきた男の子の頭をわしゃわしゃと撫でる。この子は、近所の北農園さんとこのお孫さん。信ちゃんこと信介くん。
おばあちゃん同士が仲良しなのもあって今よりもっと小さい頃から知っていて、勝手に弟のように思っている。

「おばあちゃん調子悪いん?」
「ん〜ちょっとだけねぇ」
「お大事にしてな」

うーん、小学校低学年とは思えない受け答えと落ち着きっぷり。私も見習わなアカンわ。

「これ野菜のお裾分け」
「いつもありがとうな〜!おばあちゃんにもよろしく言うといてな」
「おん」

毎度、採れたてのお野菜を持って店に来てくれる。重い野菜を一生懸命抱える信ちゃんはとっても可愛くてほっこりしてしまう。今日の野菜はなんやろ。

「信ちゃん今日もおせんべい買うてく?」
「おせんべいもええんやけど……」
「ん?なんか気になるもんある?」

信ちゃんはおせんべいを買っていくことが多い。お米からできてるから、と。北農園でメインに育てているのがお米だからなんやろな。

「これもお米で出来とるってほんま?」
「あぁ〜!それ食べたことなかったっけ?」

信ちゃんが取ってきたのはオレンジのパッケージの「にんじん」。中にはポン菓子が詰まっている。

「ポン菓子いうお米から出来たお菓子が入っとるんよ」
「ポン菓子……」
「そ、ひとつ開けたるから食べてみ」
「ええの?」
「ええよ、ナマエちゃんのや」

口を止めてあるテープをペリペリと剥がせば出てくる小さなポン菓子たち。

「信ちゃん手ぇ出して」
「お、おん」
「ほい」
「いただきます……」

手のひらにパラパラといくつか乗せてあげれば、一粒摘んで恐る恐る口へと運ぶ。
ふふ、味の想像が付いてないんやろなぁ……。
一粒食べた信ちゃんはくりっとした目をぱちぱちとさせて、私とポン菓子を交互に見てきた。

「どう?」
「甘くてサクサクや」
「せやろ?」

今度は3粒、口に入れてサクサクとした食感を楽しんでいる。私も食べよーっと。
手のひらに乗せたポン菓子を一気に口へ入れれば、じんわりとした甘さが広がる。久しぶりに食べたけど、好きやなぁ。
2人して、もぐもぐ、さくさく。

「これ、お米がどうなっとるん?」
「あー、なんやったっけな、確かポン菓子専用の機会があんねん」
「ポン菓子専用……」
「それで熱と圧力を加えて作るんよ」
「なんでポン菓子言うん?」
「作るときにな、ポン!って音すんねん」
「へぇ……!」

ポン菓子に興味津々な様子の信ちゃん。キラキラとした目でポン菓子を見ている。
ちょっと待っててな、と奥へとパソコンを取りに行き台の上に乗せてポン菓子を検索する。多分作っとるとこの動画あるやろ。……お、あったあった。

「信ちゃん、こっちおいで」

頭にはてなを浮かべながらも私の横に来た信ちゃんへ、パソコンを向ける。

「これ、ポン菓子作っとるとこ」
「え!」

動画を再生すると、食い入るように見つめ始める。画面の中のおっちゃんが、機械にお米を入れているシーンで「ほんまにお米や……」と呟いていた。始めは加熱と加圧で、特に変化がないのだが、しばらくすると機械に大きなカゴをかぶせ始める。そろそろやな。
おっちゃんが合図と共に何かでカゴを叩いた瞬間……『ドン!』

「っわ!」
「あはは!」
「え、なん今の!?爆発した!」
「な、爆発したなぁ」
「全然ポン!なんて可愛らしい音ちゃうかった……」

ポン菓子の爆発音と一緒に驚いて飛び上がった信ちゃんが可愛いらしくて、思わず笑ってしまう。

「ポン菓子ちゃうくてドン菓子や……」

にんじんを抱きしめてそう言った信ちゃんにまた笑う。衝撃的だったらしい。

「……これひとつください」
「はーい、30円になります〜」
「ばあちゃんにも教えたんねん」
「ふふ、せやね」
「?!、」
「っわ」

会計を済ませて引き戸のとこで信ちゃんを見送ろうとしたとき、また奥から『ドン!』と爆発音が鳴って、その音にびっくりした信ちゃんが躓いて転んでしまった。
……ポン菓子の動画繰り返しになっとったかぁ。

「信ちゃん大丈夫?」
「……おん、ちょっと擦りむいただけやから平気」

手を伸ばして立ち上がらせれば、パッパッと膝を叩いて何事もなかったかのように振る舞う。しかし、その目は少し潤んでいる。
血は出てなさそうやから良かったけど、悪いことしてもうたわ。

「信ちゃんこれあげる」
「飴ちゃん?」
「おまけ〜」

ポッケに入っていたいちご飴を、手に半ば無理矢理握らせてやれば、ニコニコとした笑顔でお礼を言う。おまけというか、ちょっとした罪滅ぼし的な。

「じゃあまたな、ナマエちゃん」
「おん、気ぃつけや〜」

もう転ばんようにな、と心の中で付け足した。

そういえば今日の野菜、なに持ってきてくれたんやろ。
信ちゃんをお見送りしてからふと思い出した野菜のビニール袋。中を覗けば、オレンジ色のにんじんが3本入っていた。

「あはは!人参持ってきてにんじん買うて帰ったんかい!」

にんじんと、にんじん




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