「ナマエちゃーん!」
「今日も来たで!」
「あ、侑くん治くんこんにちは」
「こんにちは!」
「こんちはー!」

元気よく店に入ってきたのは、そっくりな顔の2人。そっくりすぎてたまに間違えてしまうのだが、分け目やTシャツの色でなんとなく見分けている。……見分けられているはず。

「今日ばあちゃんは?」
「んー、今日はお休みやねん」
「そっかー!」

ばあちゃん、というのはこの店の店主で私の祖母にあたる人だ。最近はちょっと体調が優れず、私がこの店を手伝っていることが多い。サークルにも入っていなくて暇だし、いつかはこの店を継ぐつもりでいるから、わりと楽しんでいる。

「今日は買うもん決まってんねん!」
「そうなん?」
「これこれ!」
「これ!」

とてとてと1つの台まで走って、2人が取って来たのはココアシガレット。あら、珍しい。いつもは大体ビッグカツとかブタメンなのに。

「それ選ぶん初めてやない?」
「おん!これをな、カッコよう食べんねん!」
「俺らももう大人のオトコやで!」

なんとも可愛らしい理由に、思わず吹き出してしまった。そっか、タバコごっこがしたかってんな?
小さい頃、誰もがしたであろうココアシガレットをタバコに見立てるお遊び。今日はこの双子がデビューするらしい。学校で話題になったとかなんとか。

「ナマエちゃんにも見せてや、カッコよう食べるとこ」

そう言ってみれば、キラキラとした瞳で「見て見て!」と私に小銭を押し付けてペリペリとプラの包装を剥がし出す。押し付けられた小銭はぴったりココアシガレット2箱分で、これを買いに来るためだけにうちに来てくれたというのがわかってさらに頬が緩んだ。かわええなぁ。

「こうか?!」
「いや、こうやろ」
「なぁ!ナマエちゃん俺が合っとるよな?!」
「あはは!2人とも合っとるよ」

ココアシガレットを咥える向きであーだこーだ言っている双子をパシャリと携帯で撮れば「ちょお!キメてるとこ撮ってや!」と文句が飛んでくる。

「はい、カッコええポーズ決めて〜!」
「おん!」
「どや!」

ポーズを決めてくれと言えば、2人はビシッと渾身のポーズを決めてくれてその可愛らしさに携帯を構える手が震えそうだ。なんとかシャッターを切れば、被写体のほうからなにやらボリボリと聞こえ出して「うま!」と弾んだ声が二重で聞こえて来た。
あ、もう咥えるのやめて食べとるわ。2本、3本とボリボリ食べ進めていく2人の動作がこれまたそっくりで、こっそりと写真に納めた。

「かっこええのに美味いとかすごいなコレ!」
「ほんまやな!」
「ふふ、美味しかったなら良かったわ」
「しかも6本も入っとるしな!」
「でももう半分食べてもうたな」
「な……」

しょぼーん、と効果音がつきそうなくらい寂しそうな顔をして箱の中身を眺めている。ココアシガレット、止まらなくなるん分かるで……。

「あと半分も食べてまうか?」
「いや……さすがにオカンに怒られるやろ」
「せやな……」

箱の口を閉じて、お尻のポッケに仕舞った。ボコッと飛びてたポッケがなんとも小学生らしくて可愛い。

「ほな、ナマエちゃんまた来るな〜!」
「またな〜!」
「ふふ、気ぃ付けて帰りや」
「「はーい!!」」

ぶんぶんと手を振って、走りながら帰っていく双子を見送った。2人で競うように走っていて転けないか心配になる。……あ、ポッケから落ちた。
落としたココアシガレットの箱を拾い、また走り出したのを見届けてから店に戻った。
私も久しぶりにタバコごっこしようかなぁ……もう本物を吸える歳やけど。



ここは兵庫の駄菓子屋さん




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