引き戸を開けて入ってきた高校生に、いらっしゃい、と声を掛ければぺこりとお辞儀を返してくれる。
……あ、この子は。
その高校生の顔を見てとあることを思い出した私は、その子がそれを見つけ出す前に売り場へと向かった。

「じゃーん!」
「……あ」
「ふふ、仕入れておきました!」
「わざわざ?」
「え、いらなかった?」
「いえ、いります」

じゃーん、と私がその子へと差し出したのは塩キャラメル。
あまり喋ったことはなかったけれど、中学生の頃から何度かうちに来てくれていた子で、前回来たときに

「ここ、塩キャラメルはないんですか」
「え?」
「いや、普通のキャラメルは何個か種類あるのに塩キャラメルだけ全然置かれないから……」
「塩キャラメル好きなの?」
「……まぁ」
「塩キャラメルかぁ……次までに用意しとくわね」

という会話をしていたのだ。
塩キャラメルにあまり馴染みがなかった私が食べてみたい、という理由もあってあの後すぐに仕入れていた。

「えーっと……」
「あ、国見です」
「国見くん」
「はい」
「ミョウジです」
「あ、はい、知ってます」
「塩キャラメル初めて食べたんだけど美味しいね」
「え、初めて?」
「そうなの」

はい、と渡した塩キャラメルを落としそうになるほど驚く国見くん。えぇ〜、そんなに驚くこと?
存在は知っていたけれど、キャラメルに塩を加える意味があまり分からなかったから、食べたことがなかった。だってあの甘ったるさがキャラメルの美味しいところじゃない。しかし食べてみると、程よい塩味がクセになる美味しさだった。あの甘じょっぱさは他の駄菓子では食べられない味だ。

「ハマっちゃって毎日一粒食べちゃってるのよ」
「昔、」
「ん?」
「昔、姉にキャラメル買ってきてって言われたときに間違えて買ったのが最初で」

国見くんが塩キャラメルを見つめながらぽつぽつと話し出す。
お姉ちゃんがいるのね。たしかに弟っぽい気がするわ、なんて余計なことを考えてしまった。
あまり表情が動かない国見くんだけれど、そっとキャラメルの箱を親指で撫でたその仕草で、懐かしい思い出を愛しんでいるのがよく分かる。

「姉に要らないって言われて俺も要らねぇよって思ったけど食べたら意外に美味くて、そっから好きです」
「へぇ〜、運命の出会いだったのねぇ」
「運命って……」

ちょっと引いたように笑われてしまった。……おばちゃんノリだったかしら。歳を取るとこう言うところが良くない、気を付けなきゃね。

台に塩キャラメルの箱と普通のキャラメルの箱が1つずつ置かれた。あら?と国見くんを見ればちょっと恥ずかしそうに「俺だけ食べてると、塩じゃないやつは?ってうるさいんで」と零す。その様子が可愛らしくて思わず笑ってしまえば、じとりとした視線を向けられてしまい慌てて手を口元に当てた。しかし緩む頬は抑えきれそうにない。

「ふふ、これからはうちにも置いてあるから食べにきてね」
「……ハイ」

入ってきたときと同じように、ぺこり、とお辞儀をして店を出て行った。



塩味と甘さのバランス




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