「うわー!降られた!ばあちゃんちょっと雨宿りさせてー!」
「まぁ!ずぶ濡れじゃないの木兎くん」

勢いよく開けられた引き戸から入ってきたのはずぶ濡れの高校生。たまに来てくれる元気な子。毎朝セットしていると言っていたトレードマークの髪の毛も濡れて垂れてしまっている。夕立に降られちゃったのね。

「急に降られちゃってさぁ……」
「タオルどうぞ」
「ありがとー!」

ガシガシとタオルで頭を拭いた後、ブルブルっと頭を振って水を飛ばす木兎くんに思わず笑ってしまう。わんちゃんみたいだわ。空いている丸椅子に座らせ、冷たい麦茶を出して私も隣へと座った。カラン、と溶け始めた氷が動く音が鳴る。

「少ししたら止むかしらね」
「そうだといいんだけどなー」
「傘持ってなかったの?」
「降らないと思ってロッカーに置いたまんまにしちまった!」
「ふふふっ」

置き傘をそのまま置いてきてしまったのね。夏場は夕立があるからカバンに入れておいたほうがいいわよ。冷たい麦茶を一気飲みした木兎君は、店内を物色し始めた。

「今日も焼肉さん太郎?」
「うーん、それも捨てがたいんだけど今日は甘いもん食べたい気分!」

焼肉が好物だという木兎くんは、うちに来るたびに3枚ほど焼肉さん太郎を買って行ってくれていた。しかし今日は甘いものの気分だったようで、飴やラムネ、綿菓子が並ぶ棚を見ている。なににするのかしら。
これにしよー!っと持ってきたのは瓶に入ったねりあめ。赤い、いちご味だ。

「ここで食べてっていい?」
「まだ止みそうにないし、どうぞ」
「よっしゃー!」

外はまだ土砂降りだ。
練り始めは固いはずなのだが、さすがは男子高校生。割り箸で軽々と練り始めた。ふんふんと何かの曲を鼻歌しながら、ぐるぐる、ぐるぐる。

「ばあちゃん、こんなもん?」
「そうねぇ、十分じゃないかしら?」

木兎くんが見せてきたねり飴はもう白っぽくなっていて、しっかりと練られたことがわかる。鼻歌を続けながら箸同士でくるくる〜と器用に丸めて口に含む木兎くん。あら、上手に食べるわねぇ。まとめるのって意外と難しかったりするのよね。

「ん〜!あま!うま!」
「ふふふ、木兎くんっていつも美味しそうに食べてくれるわね」
「だって美味いから!」

口をもごもごとさせながらも笑顔でその言葉を向けられてなんだか嬉しくなる。私は駄菓子を売っているだけで、実際に作っているわけではないというのに。やっぱり駄菓子を美味しいと笑顔で食べてくれるのは嬉しいわ。

「甘いの食べたらしょっぱいもん食べたくなってきたなぁ……」

割り箸を咥えながらそう言う木兎くんの視線は焼肉さん太郎のほうへと注がれていた。咥え箸はよろしくないけれど、こびり付いたねり飴まで舐め切りたくなる気持ちはわかるから、今は見逃してあげよう。

「やっぱ焼肉さん太郎も食っちゃお」

ダッ、と効果音がつきそうなほど勢いよく焼肉さん太郎の棚まで行き、1枚掴んで戻ってきた。ねり飴食べたから今日は1枚で我慢する、とちょっと眉間に皺を寄せながら。
木兎くんが焼肉さん太郎の袋をピッと開けたとき、店内が一気に明るくなった。雨が止んで、眩しいくらいの陽が店内に差し込んで来ていた。

「雨やんだみたいね」
「超明るくなった!」
「ほんとにねぇ」
「雨宿りさせてくれてありがとー!」
「いいえ、またいらっしゃいね」
「おう!」

2口ほどで焼肉さん太郎を平らげた木兎くんは、きちんとゴミをまとめてから席を立った。濡れた髪や服も、もう大分乾いているみたい。
引き戸を開けて一歩外を出たところで木兎くんが「あ!」と大きな声で叫ぶ。

「ばあちゃんばあちゃん、虹!」

何事かと尋ねる前に答えが返ってきた。あれだけ降ったあとに、こんなに晴れたから虹が出たのね。
手招きする木兎くんの元へ行き、空を見上げると大きくてくっきりとした虹がかかっていた。

「まぁ……綺麗ね」
「ねり飴みたいだな!」
「ねり飴?」
「そう!ほら!」

ねり飴みたい、と言われてピンと来なかったが、ほら、と木兎くんが指さした場所を見て意味がよくわかった。
そこには赤、青、緑、黄色、紫の虹みたいにカラフルなねり飴の瓶たちが並んでいた。



雨宿りと虹色




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