「あのね!今度弟が産まれるの!」
「じゃあ美羽ちゃん、お姉さんになるのね」
「うんっ!」
「たのしみ?」
「すっごく!」

まだ店主がおばあちゃんで、私は手伝いをしていた頃。
100円玉を握りしめてやって来る可愛い小さな常連さんがいた。いつもニコニコしていて、おじいちゃんと一緒に来ることが多かった。ちなみに美羽ちゃんはおじいちゃんのことを一与くんと呼んでいて、それが私にはツボで。私も真似して一与くんと呼ばせてもらっている。

「飛雄ったらね、私のボール食べちゃうの!」
「ふふっ、食べちゃうの?」
「もう、ナマエちゃん!笑い事じゃないのー!ヨダレでべしょべしょなんだよ!?」
「そっかそっか、お姉ちゃんも大変だね?」
「そうなの!」

弟くんが産まれてから、店に来るたび美羽ちゃんは飛雄くんの話をたくさん聞かせてくれた。ぷりぷりと可愛く怒っていることが多かったけれど、一与くんによれば飛雄くんの面倒をたくさん見てくれるしっかり者のお姉ちゃんだそうで。一与くんからしたら孫たちは可愛くて仕方ないのだろうな。

3年後くらいには美羽ちゃんと一与くん、飛雄くんの3人でお店に来てくれた。それが飛雄くんとの初対面。まだ3歳だった飛雄くんだけれど、一与くんと美羽ちゃんがやっているバレーボールに興味津々らしく、手にはバボちゃんのぬいぐるみがしっかりと握られていた。ん、と手を伸ばして私にバボちゃんを見せてくれたのを覚えている。

「飛雄!ラムネいっぱいあるよ!」
「うん」
「どれがいい?」

口数の少なめな飛雄くんだけれど、たくさん並んだラムネを前に目が輝いている。美羽ちゃんの目もキラッキラだ。なんでも、少し前から美羽ちゃんと飛雄くんの間でラムネブームが来ているらしい。飛雄くんの手を取って、一緒に選んであげている美羽ちゃん。
初めて美羽ちゃんが"お姉さん"をしているところを見れて、親戚でもなんでもない他人だと言うのにじーんとしてしまった。歳を重ねるごとに涙腺が弱くなっていって嫌ね。

「ナマエちゃん!」
「なぁに?ラムネ決まった?」
「うん!これにする!」
「飛雄くんは?」
「おれ、これ」

美羽ちゃんはピンクのラムネ、飛雄くんはカラフルなラムネ。味は違うけれど同じ種類のラムネだった。

「あとこれも!」

そう言ってラムネの横に置かれたのはミルクボーロ。飛雄がね、これ好きなの、と。それを聞いた私と一与くんは思わず天を仰いだ。なんていい子なの……!!
そのあと一与くんが美羽ちゃんが好きなのももう1個持っておいで、と言ったがミルクボーロ一緒に食べるからいいの!と笑って答えていて、また天を仰ぐことになる。

それからたびたび、美羽ちゃんと飛雄くんは仲良くこの店にやって来るようになった。バレーボールに行ったあとのことが多かったかな。
ただ、大きくなるにつれてやっぱり来る頻度は減っていった。最近もあまり2人を見てないねぇ……まぁ駄菓子屋って歳でもなくなるか。

「こんちわ」
「え、ん?飛雄くん?!」
「っす」

それが今年の春、記憶よりも随分と大きくなった飛雄くんが店に来てくれた。成長期ってすごいな……。

「大きくなったねぇ……!ていうかその制服!」
「烏野、入学しました」
「わぁ!おめでとう!」
「ありがとう、ございます……姉ちゃんに、ナマエちゃんに顔見せに行けって言われたんで」
「ふふ、元気そうでよかった!美羽ちゃんも元気?」
「ハイ」

久しぶりの店内をきょろきょろと見渡していた飛雄くんは、あ、と何かを見つけたのか店の中央へ向かう。

「これ」
「あ、覚えてる?」
「はい」
「飛雄くんよく食べてたよね」
「姉ちゃんもピンクの食べてて」
「よく覚えてるねぇ!」

飛雄くんに着いて行って後ろから覗き込めば、飛雄くんが手に取ったのは小さい頃によく食べていたカラフルなラムネ。ロングセラー商品だから、昔からパッケージが変更することもなくいまだに販売してある。それこそ私が子供のときから同じかもしれない。
ラムネを懐かしそうに眺める飛雄くんの口元は緩く弧を描いていて、それに釣られた私の口角も上がる。

「これ、ください」
「ふふ、はーい」

これ、と差し出してきた手のひらには2つのラムネがちょこんと乗っていた。



カラフルなラムネ




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