「おばちゃんこんちはー!」
「コラ!ナマエちゃんでしょ!」
「あはは!はーい!」
「ナマエちゃん、ごめんなさいね」
「ふふ、いえいえ、いらっしゃい」

毎日のように子どもたちの元気な声が響くここは、私が営む小さな駄菓子屋。元々は祖母が営業していたお店だけれど、数年前に私が引き継いだ。おばあちゃんっ子だった私は、昔からいつもここに入り浸っていて、おばあちゃんと過ごした思い出の場所でもある。

最近、子どもたちからおばちゃんと呼ばれることが増えたのがちょっとした悩み。まだそんなに老けた覚えはないのに、いつの間にかもうそんな歳になっていたようだ。まぁ、幼稚園児や小学校低学年から見れば、おばさんになるのかしら……。

「ナマエちゃん、ちわーっす」
「あら繋心くん、こんばんは」
「おう、ばあちゃんが久しぶりにふ菓子食べたいって言ってよ」
「おばあちゃんお元気?」
「もう超元気で困る」
「ふふふ、いいことじゃないの」

日も暮れて、子どもたちの遊ぶ声も聞こえなくなった頃、ガラガラと引き戸を引いて入ってきたのは、近所に住む繋心くん。繋心くんもおばあちゃんのお店である「坂ノ下商店」を手伝っている。金髪にピアスといったちょっとイカつい見た目だけれど、根は優しい子なのだ。なんでも最近は坂の上にある烏野高校男子バレー部のコーチをしているらしい。それを聞いたとき、口が悪いから心配ね、と言ったらちょっと拗ねていて可愛らしかった。
繋心くんは一直線にふ菓子の置いてある棚まで行き、3本ほど取ってレジに置いた。昔から何度もここに来ているもんだから、駄菓子の場所は大体把握しているらしい。前に置き場を変えたら文句を言われてしまったので、それからはあまり大幅に場所を変更することは無くなった。

「こんばんはー!……ってコーチ!?」
「おー、日向じゃねぇか」
「日向くん、こんばんは」
「つーか、またお前こんな時間まで自主練してたのかよ……」
「アッ!すいません!」

60円のお会計に100円玉1枚を手に乗せてくれた繋心くんに、おつりを数えているとまた店内に元気な声が響く。この子もこの店の常連さんだ。あぁ、そういえばバレー部って言ってたわね。

「じゃあな、ナマエちゃん」
「おばあちゃんによろしくね」
「おう、また来るわ。日向も気ぃつけて帰れよー」
「ハイ!」

ふ菓子とお釣りを繋心くんに渡して、お見送りをすれば日向くんは入り口付近でその様子をソワソワしながら見ていた。

「どうかした?」
「あっ、いや!えっと……コーチとお姉さんって仲良いんですか?!」

……あ〜、久しぶりに聞いた。お姉さんという響き。ありがとう日向くん。
そうか、日向くんがこの店に来るようになったのは烏野に通い始めてからで、最近だから知らないのか。

「ご近所さんだからね、繋心くんのおばあちゃんとこにも昔からお世話になってて」
「なるほど……!」
「そうなのよ、私もここは元々おばあちゃんのお店でね、おばあちゃん同士が仲良かったの」
「じゃあじゃあ、コーチが烏野バレー部員だった頃のことも知ってるんですか?!」
「うん、知ってるよ」
「え!」
「でもこの話はまた今度ね、早く帰らないともっと暗くなって危ないわよ」

お家遠いんでしょう?と言えば、ハッとしたように駄菓子を選び出した。いつも自分の分と、妹の分の駄菓子も買っていく優しいお兄ちゃん。今日はモロッコヨーグル2つと焼肉さん太郎1枚。

「今日クラスの奴と焼肉の話になって、絶対これ買って帰るって決めてました!」
「ふふっ、焼肉気分味わってね」
「ハイ!」

なんとも可愛らしい理由に思わず笑ってしまったが、日向くんは気を悪くはしなかったようでニコニコ笑顔でお会計を済ませた。モロッコヨーグルは妹ちゃんのお気に入りになったらしい。
そろそろ閉店時間も近かったから、店先まで一緒に出て、日向くんのお見送りをした。大きく手を振ってさよならをしてくれる日向くんに癒された。……男子高校生に癒されるって、やっぱりもうおばさんであることを認めざるを得ないかもしれない。



ここは宮城の駄菓子屋さん




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