「寒っ……」

店の前に広がっている落ち葉を箒で掃きながら、思わず寒さへと悪態をつく。
気温も空気もすっかり秋づいて、なんなら冬に近づいている今日この頃。店内は暖房でぬくぬくだから早く済ませて中に入りたいわ。

「お、ナマエちゃんチーッス」
「ん?あ、ちょっと!?」

後ろから声を掛けられて振り向けば、見知った高校生が「おりゃっ」と掛け声でもつきそうな勢いで集めた落ち葉を蹴ろうとしていて。私は慌てて箒をそちらに向けて静止をかける。

「ストップストップ!」
「あ、だめ?」
「ダメでーす!」

なんとか蹴られる一歩手前で止められてホッと胸を撫で下ろした。
また一からやり直すことになるところだった。せっかく寒い中作業したっていうのに、なんてことをする気だこの子は。当の本人は「ちぇー」と言いながら、落ち葉の山の隅っこをいじいじと踏んだ。

「こんにちは、二口くん」
「ちわ」
「今日部活は?」
「体育館の点検で休みー」
「そっかそっか」

話しながらも箒で掃くのを続けていれば二口くんも足でザッザッ、と落ち葉を寄せてくれていて思わず口元が緩む。優しいなぁ。
それに気付いた二口くんは少し口を尖らせながらも続けてくれた。

「よっし、もういいかな。手伝ってくれてありがとう!」
「……別にぃ?」
「ふふ、お茶入れるからちょっと温まっていきなよ」

どうぞ〜、と引き戸を開けて半ば強引も店内へと招く。私が奥へとお茶を淹れに行っている間に、勝手知ったる二口くんは丸椅子を出してきて座っていた。
湯呑みに両手を添えて「あったけぇ」と手を温めている二口くんに並んで私もお茶を啜る。
あー……寒い日の温かいお茶ってなんでこんなに美味しいんだろうな。
外気で冷え切った身体が内側からぽかぽかと温まってくる。

「あ、新しい味出てんじゃん」
「あぁ、そうそう!つい最近出たのよ」

ふと棚に視線を向けた二口くんが見つけたのは、二口くんがお気に入りのグミの新味だ。ラズベリー味だったかしら。
そのグミのシリーズはすっごく酸っぱい。私も前に食べたけれど、酸っぱすぎて元々シワの増えてきた顔がさらにシワくちゃになったほどだ。そんな酸っぱいそれが二口くんは好きらしい。

「買ってこーっと」
「好きねぇ」
「これが1番酸っぱくて良いんだよ」
「この間小学生が罰ゲームに買ってたわよ」
「ま、この美味さが分かんねぇのはまだまだガキだわー」

ニィっと意地悪そうに笑った二口くんは、グミ代の小銭をぴったり机に置いてから封を開けて、1粒口に放り込む。ふわっと広がった甘酸っぱい香りが前に食べたあの酸っぱさを思い出させ、口の中でじわりと唾液が増えるのが分かった。ピチピチの若いお肌はシワくちゃになることもなく、美味しそうにもぐもぐと食べている。

「ナマエちゃんも食う?」
「……遠慮しとくわ」
「ハッ、ナマエちゃんもガキ舌かよ!」

ケタケタと笑いながらもう一粒、楽しそうに口に放り込んだ。味覚だけは二口くんより若いことを喜んでおこうかしら……。「お茶と合うかも」なんて言ってる二口くんの味覚は意外と歳上なのかもしれない。
他愛ない話をしていれば、軽快な音楽が店内に響く。「俺のだわ」とスマホを取り出した二口くんは画面を見た途端、面倒くさそうな顔をする。

「電話でしょう?出なくていいの?」
「あー……うん、ちょっと出てくるわ」
「どうぞどうぞ」

鳴り止まない着信音に小さく舌打ちをして、外に出ようとしたところを「寒いから中で話しなね」と声を掛けて私が店の奥へと移動しようと席を立った。軽く頭を下げた二口くんがスマホを耳に当てた途端「二口先輩今どこっスか?!」と聞こえてくる。こちらにも余裕で聞こえるほどの声のボリュームに驚いたけれど、二口くんは慣れているようで眉を思いっきり顰めながら「うっるせえよお前!!電話でくらい静かに喋れ!」と電話の向こうの相手へと怒鳴っていた。
部活の後輩からかしら……って、あまり聞き耳立てちゃいけないわね、棚の整理でもしておこう。


「ナマエちゃーん」
「あ、電話終わった?」
「おう、なんか部室戻って来いって」
「あら?何かあったの?」
「わかんねーけど、取り敢えず行ってくるわ。お茶ごっそーさん」
「はーい、いってらっしゃい!」

ぐいっとすっかり冷めてしまったお茶の残りを飲み干し、ひらひらと手を振って店を出て行く二口くんに、私も手を振って見送った。


『本日の主役』と書かれたタスキを掛けて「誕生日、祝ってもらった」と口を尖らせながらも嬉しそうな目をした二口くんが、青根くんと一緒に店に寄ってくれるまであと1時間。

すっぱさで隠された優しい味




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