「「ナマエちゃん!トリックオアトリート!」」

綺麗な夕日が店内に差し込む頃、元気な声が二重になって響いた。

「わ、可愛い〜!」
「がおー!」
「オオカミ男やで!」

お店にやってきた常連さんの双子は、オオカミの耳と尻尾を付けて、カボチャのカゴを持っていた。
今日は10月31日、ハロウィンだ。今日一日、こうやってお菓子をもらいに来る仮装した子どもたちがたくさんいる。近所のお母さんたちと協力して、子どもたちにハロウィンを楽しんでもらおうとスタンプラリーならぬ、お菓子ラリーを開催中なのだ。双子はバレーボールクラブが終わってから来たらしい。

「はい、侑くん治くん、ハッピーハロウィン!」
「やった!」
「いっぱいや!」

店で用意したのはちょっとした駄菓子詰め合わせセットだ。ハロウィンっぽいラッピングをして。

「なぁ、ナマエちゃん、オオカミ男カッコええ?」
「カッコええやろ?」
「おん、カッコええしかわええよ〜!」
「かわええはいらん〜!」
「カッコええだけがいい〜!」

ぶんぶん、と尻尾を振って抗議する双子の姿はそれはそれは可愛い。
カッコええだけになるんはもうちょっと大きくなってからやろな〜?

「ナマエちゃんは仮装せえへんの?」
「いやいや、私はさすがにせえへんよ」
「これ!付けようや!」
「なんでそんなもん持っとるん?!」

侑くんがカボチャのカゴから取り出したのは、双子と同じオオカミ耳のカチューシャ。しかし双子のものと違って、オレンジのリボンが付いていた。
……かわええけれども、この歳で着けるには可愛すぎちゃう?

「オカンがな、ナマエちゃんどうせなにもしてへんやろからって!」
「そんで3人で写真撮るんが俺らのミッションやねん!」
「ちょ、ほんまに?」
「おん!」
「付けて!」

……双子のオカンからの悪戯らしい。ミッション、だなんて言ったら小学生は張り切るに決まっている。キラキラとした目で私にカチューシャを押し付けてくる侑くんに、私は断り切ることができなかった。
渋々それを受け取って、そっと頭に乗せれば「わー!」と歓声が上がる。
無垢なその歓声が痛いわぁ……私のもリボン付いてない、耳だけのでよかったのに……。

「かわええ!」
「ナマエちゃんかわええ〜!」
「……おん、ありがとう」
「写真!撮って!」
「はいはい」

スマホを起動して、双子と視線を合わせるようにしゃがむと2人が私を挟み込む。お菓子を掲げてポーズを取った2人を見てシャッターを切る。

「はい、チーズ!」
「「がおー!」」
「あはは!」
「それオカンに送っといてー!」
「ミッション成功や!」

イエーイ、と2人でハイタッチをしている様子も撮って一緒に送信すれば、すぐに返信が届いた。キツネが笑顔で喜んでいるスタンプと「ナマエちゃんかわええね」とハートマーク付きで。
くそぅ、いつかイタズラ仕返ししたるからな……!!なんて。

「侑くんたちまだ回るお家あるんちゃうん?」
「ハッ!せやった!」
「お菓子まだまだ貰って来なアカン!」
「あはは!気をつけて行っといで」
「「ナマエちゃんバイバイ!」」
「ばいばーい」

手を振って双子を見送れば、入れ違いで近所の子どもたちが入ってくる。

お菓子でいっぱいになったカゴを自慢しに、またこの店に双子が戻ってくるまであと30分。

ハッピー!ハロウィン!




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