「あっつぅ……」

もう夕方だというのに、一歩店の外に出るとじっとりとした暑さが全身にまとわりつく。少しでも涼むようにとバケツに汲んだ水を辺りに撒いた。

「あ、ナマエちゃんさん」
「おぉ、角名くん」

水撒きを終えて、お客さんもいないからと店先でボーッとしていれば顔見知りの高校生が前を通る。休日だからいつもの制服やジャージ姿ではないラフな格好だった。足下もサンダルでちょっと新鮮だ。
背が高いとそんなラフなんでもオシャレやなぁ……羨ましいわ。

ナマエちゃんさん、と私のことを不思議な呼び方をするその高校生、角名くんは、幼い頃からこの店の常連さんである双子に連れられて来るようになった子。双子とは学年も部活も同じらしく、もう1人の部活仲間も合わせて4人でここに来ることもしばしば。

「今日部活休みなんー?」
「そ、課題してたけど疲れて散歩中」
「えらいなぁ、お疲れさん!」
「ちょっと涼んでっていい?」
「どうぞどうぞ」

引き戸を開けながら手招きすれば、Tシャツをパタパタと仰ぎながら「生き返るー……」と漏らした。扇風機の風量も強にしてあげよう。

「チューペットも冷えとるよ〜」
「!!」

角名くんの好物であるチューペット。夏前から「夏になったら店の冷凍庫に常備しておいてほしい」とのご要望があり、何種類か常備してある。角名くんからチューペットが一番好き、と聞いたときは今の高校生でもチューペット食べるんやなぁ、というのが正直な感想だった。だって最近は安くて美味しいアイスむっちゃあるやん?高くて美味しいアイスももちろん増えたけれども。それこそあの双子はチューペットを買っていたのは小学生までだった気がする。2人で半分こして良く食べていた。ちなみに角名くんは1本を1人で食べる。

「日曜だから無いかと思った」
「ふふふ、常備しとるよ」
「さすがナマエちゃんさん」

ニコニコしながら冷凍庫の前へと行き、ゴソゴソと中を漁り出す角名くん。リンゴ味かブドウ味で悩んでいるらしい。冷凍庫にはチューペットだけじゃなくもちろん他のアイスだって入っているが、チューペット以外を選んだことはない。

「どっちにするん?」
「超迷ってる」
「じゃあ半分こしよーや」
「え、いいの?」
「ええよ、私も食べたいな〜思ってたとこやねん」
「ナマエちゃんさんはリンゴとブドウでいいの?」
「ええよええよ」

こっち持ってきて、と言って2本を持ってきてもらい、キッチンバサミでパキンと割る。手で割ってもええんやけどさ、たまにぐにゃあってなるんが嫌いで私はハサミ派。

「おっと……はい!」
「んぐっ」

溶けて垂れそうになってしまったブドウ味を急いで角名くんの口に突っ込んだ。いきなり口に入れられるとは思わなかったのか目を見開いている。
いやごめん。だってブドウは垂れたらシミになるやん?角名くんTシャツ白やし、床に垂れても嫌やし?
私もブドウ味を口に含み、もう1本を割った。しかし割ってから気付く。
……一気に2本割る必要あった?
まぁ割ってしまったものは仕方ないのでリンゴ味も角名くんの口元へ差し出す。一瞬迷った角名くんだったけれど、ブドウ味がもう口から離しても大丈夫なくらい食べたみたいで入れ替えるようにリンゴ味を咥えた。

「味混ざって分かんねぇー!」
「あはは!ごめん!私も割ってから気づいた!」

間抜けっぷりに2人してケタケタと笑う。笑っている間にも溶けていくリンゴ味とブドウ味を急いで食べながら。
2つの味同時になんて初めて食べたかもしれん……味を楽しみたいならおすすめはできひんわこれ。

「はぁー、笑った」
「ほんまに」
「ブドウとリンゴだとブドウが強いね」
「なー、ブドウ強かったわ」

ブドウ味の圧勝といった感じで終わった2味チューペット。それでもしっかりと身体を冷やしてくれて「やっぱ夏はこれだわ」と角名くんが呟く。
そんな角名くんに冬はなんのアイスを食べるのだと問えば「チューペット」と即答するもんだから落ち着いていた笑いがまたぶり返した。

何が「夏はこれだわ」やねん、年中チューペットやんか!

今年の冬は冷凍庫動かしといたろかなぁ……。

欲張りさんのマヌケ面




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