小さくてトゲトゲした見た目とは裏腹に、口に入れると甘ったるい金平糖が昔から好きだった。

高校の近くにある駄菓子屋。昔、兄ちゃんが高校生のときに何度か連れて来てくれたことがある。記憶の中でもこじんまりとしたお店だったけれど、久しぶりに覗いてみれば自分が成長したからかもっと小さく感じた。

「あら、いらっしゃい」
「ドーモ」
「ゆっくりしていってね〜」
「……はい」

この小さなお店でゆっくりもなにもあるのだろうか、などと思ったが店の奥のベンチでは幼稚園児くらいの子どもが正にゆっくりしているところだった。船を漕いでて、ベンチから落ちそうになっている。

「あら!ハルくん寝そうだわ、っていうか寝てるじゃない!」

僕の視線に気づいたのか、お店の人が奥のベンチを見てそう言う。あーあ、と言いながらそのハルくんとやらを起こしていた。
……お店の人、もっとおばあさんだった記憶なんだけど。
店に入ったときからどこか違和感があったけれど、今思い出した。そうだ、たしか兄ちゃんと来たときはお店の人が違った。

「ハルく〜ん、もうお母さん来るから寝ないで頑張って〜!」
「ふぁーい……」
「あ、噂をすればお母さんじゃない?」

外でキキッと自転車の止まる音がして、お店の人が出入り口の方を向く。それはお迎えの音で当たりだったようで、ハルくんがそちらへと駆け出した。

「ナマエちゃんごめんね〜!」
「いえいえ、特売品買えたかしら?」
「もうバッチリ!」
「ふふ、それは良かった」
「ナマエちゃんバイバイ!」
「うん、バイバイ!」

その様子ををじっと眺めていれば見送り終わった……ナマエさん、に「騒がしくてごめんねぇ」と言われてしまい、軽く頭を下げておいた。特に何を買うか決めていた訳でもなかったから、なんなら店内に自分1人よりも騒がしくしていてくれた方が良かったかもしれない。

「あれ、君もバレー部?」
「まぁ、ハイ」
「……まさか繋心くんがうちの店宣伝してくれてる?」

ナマエさんに背を向けたところで声をかけられる。ジャージで気付いたのだろう。ていうか、繋心くんって……。

「……コーチと知り合いなんですか?」
「あ、繋心くん?そうそう!ご近所さんだからね〜」
「そうですか……別に宣伝はされてませんけど」
「あはは!違ったか〜!いや、最近バレー部の子よく見るなと思って」

ケラケラと笑いながら棚に商品を補充していく。

「昔、兄が高校のとき連れてきてくれたことがあって」
「え?ここに?」
「ハイ」
「へぇ〜!お兄さんも烏野だったんだ?」

そっかそっか〜、と嬉しそうに頷く。兄ちゃんの歳を聞かれて答えれば、指を折って何かを数え始める。

「あ、じゃあ前来てくれたときは私じゃなくておばあちゃんのときだねぇ」
「え」
「違った?」
「たしか……」
「私あのおばあちゃんの孫なのよ、店継いだの」

あぁ、そういうことか。偶然にも疑問に思っていたことの答え合わせが出来てスッキリした。
適当に駄菓子の山を物色していると、カップに入ったトゲトゲを見つけた。これもまた、手に取ってみればこんなに小さかったっけ、という印象。カップの中でカラカラと動くそのトゲトゲたちが、なんとなく光って見えた。
他にあまり引かれるものもないし、せっかく来たし、とそれをレジまで持っていく。

「お!金平糖だ、いいねぇ、好きなの?」
「……まぁ」
「来週くらいに大きめの金平糖入荷する予定だから、また来てね〜」

これくらいの、とジェスチャーで大きさを伝えてくれたが、それはちょっと誇大表現でしょ、というほど大きいサイズで思わず笑ってしまう。笑った僕を見て、本当なんだから〜!とムキになるナマエさん。

「じゃあまた、確かめに来ますね」
「ふふ、びっくりするわよ」

帰り道、歩きながらさっき買った金平糖を口に放り込む。一気に全部口に入ってしまうようなそんなサイズだけど、なんとなく一粒ずつ食べることにした。
甘ったるいトゲトゲは、舌で転がしていくうちに丸く、溶けていく。
家に着く頃にはもう残り1粒になっていて、来週入荷するという大きめの金平糖を楽しみにしている自分がいた。


ミニチュアな思い出




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -