衣替え.


「あれ、涼しげじゃん」

お風呂上がり、昨日までと違う部屋着で出ればそう倫太郎に言われる。6月に入り、先月までのような涼しさがなくなったから今日は衣替えをしたのだ。古くなったTシャツにテロテロな生地の短パンという、なんとも可愛げのない格好だけれど。春のパジャマは可愛いものを選んでいたが、夏は可愛さより涼しさを優先してしまうので仕方ない。

「…そのTシャツ小さくない?」
「あぁ、うん。だからパジャマにした」
「育ったね」
「うわ、エロ親父みたいなこと言わないでよ」

倫太郎がじっと見ているのは胸元。真顔で見ないでほしい。…にやにやしながら見られても嫌か、真顔でいいです。
元々ピタッとしたデザインのTシャツだったのだが、去年よりも胸元の生地がピンと張っている。まぁ、たしかに育ったっちゃ育ったんだけど。胸だけ育ったならまだ喜べたが、お腹や太ももなど他の部位も去年より育ってしまっているのだ。冬から春ってクリスマスに年末、バレンタインってイベントごとも多いし食べちゃうんだよね…。全部美味しかったから幸せだけど…!ピタッとしたTシャツを着て自分を追い込んでくという作戦でもある。胸以外が育ったのはいただけない。戻したい。

「エロいね、誘ってんの?」
「誘ってません〜!秋までこの格好です〜!」
「毎日はちょっと…」
「…ばかじゃん?!ちょ、触るな!」

つつつ、と張ったTシャツの部分をなぞられてくすぐったい。大きく円を描くように膨らみを優しくなぞるもんだから、くすぐったさともどかしさで身を捩る。

「んっ、」
「なに?」
「……」
「っふ、睨むなよ」
「いじわる」
「だからなにが?」
「もう〜!」
「あ、」

確信犯な倫太郎くんには触らせません!と胸元を両手でガードして体ごとフイっと後ろを向き、なぞってくる指から逃れた。
逃れたはずだったのに、今度は後ろからうなじをなぞられてしまう。ビクッと肩が跳ねたのを見逃さなかった倫太郎は、軽く笑いながら唇をそこに落とした。肌近くで吐かれた息と指とは違う柔らかな感触に、一気に体に熱が籠るのがわかった。そんなことはお構いなしにうなじから耳に向かってどんどんキスを降らせていく倫太郎は本当にいじわるだ。耳まできた、と思ったら大きめにリップ音を立ててほっぺたにキス。
あれ。耳へのキスを待っていたのに。そのまま口にもしてくれるのかと期待したのに、その期待は虚しく倫太郎はスッと立ち上がってしまった。

「じゃ、俺もお風呂入ってきまーす」
「は!?も〜〜!いってらっしゃい!!」

ケタケタと笑いながらお風呂場へと倫太郎は消えてく。コイツはほんっとにもう!
先に寝てやりたいけれどもこの気分のままじゃ寝られないじゃないか。ベッドにダイブして倫太郎の枕に顔を埋めた。





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