迷い迷った土曜日は夜更かし





「なぁ〜!何着ていったらええと思う?!」
『だからいつも通りでええやん』
「私のいつもって何?!」
『あはは!』

画面の向こうで楽しそうに笑うアコに向けて持っていた洋服をブン、と振ればスタンドに乗せていたスマホが揺れた。それにまた笑い転げられて、ヤケになってブンブンと繰り返し振る。
もー、アコに相談したんが間違いやったやろか……でもアコのセンス好きやし、こんなこと頼めんのもアコしかおらんし……。
バイトを終えて現在午後9時。明日の角名との約束に何を着ていけば良いのかと、テレビ電話を繋いで相談に乗ってもらっているところだ。角名と二人きりで出かけるなんて初めてで、やけに緊張している自分がいるのがちょっと悔しい。しかもこの緊張は角名からのメッセージのせいでもあった。
昨日の夜から今日の日中にかけて行われていたやりとり。主に明日の予定を立てるためだったのだけれど、最後の最後に『じゃ、デート楽しみにしてるね』なんて返信で終わったのだ。ちなみにもちろん、そのメッセージへの返信はしていない。
だってデートて……!デートて……!?
いや、そういう感じなんかなとは薄ら思っとったけど、こうもハッキリ言われてまうとアカンやん。
そのメッセージを開けてからしばらく心臓がうるさかったし、バイト中はどんな格好で行けば良いのか、明日は何を話せば良いのかなんて明日の事ばかりを考えてしまって、いつもはしないようなミスを連発してしまった。

『ほらナマエ、早よ決めんと明日寝坊すんでー?』
「そう言うんやったら協力してやぁ〜!」
『はいはい、候補はどれなん?』
「えっと……これと、これと、これ」

ベッドの上に3つコーディネートを広げて、インカメから外カメに切り替えて写す。ふんふん、と真面目に考え出してくれたアコが選んだのは白のニットに赤いショートパンツ。これにタイツとブーツ、ダウンで寒さ対策も可愛さもバッチリだと。『いつも通りでええやん』と言ってくれていた通り、私がよく着るシルエットだ。他の2つのコーデはあまり私らしくない、どこか着飾ったものだったかも、と改めて並べてみて思った。
全部、年上の先輩にちょっとでも近づくための、背伸びした服たちだ。

「あ、せや。角名に聞いたよ」
『ん?』
「いつから私のことーって」
『はっや!昨日の今日やろ?!』
「気になってしゃーなかったんやもん」
『あはは!さすがすぎる!』
「だから教えてよあれ」
『あぁ、私がいつから角名があんたのこと好きなの知っとったかってやつ?』
「それそれ」

ふむ、と一回考えるような姿勢をとったあと、ずいっとカメラに近づいてナイショ話でもするかのような近さになった。それに倣って私もカメラへと寄る。

『自覚してすぐ角名本人から聞いた』
「……は?」
『っていうかアイツが自覚する前から私は分かっとったし』
「……は?」
『ナマエって自分のことは鈍感よなぁ』

さらりとすごいことを言って退けたアコに、開いた口が塞がらない。

「いやいやいや、え?え?」
『おん』
「おん、ちゃうくて!」
『そないにびっくりすること?』
「びっくりするやろ!」

えーー、と仰反る様に背中を椅子に預ける。ずっと下を向いていたせいで首からボキッと音がした。そんな私を見兼ねてか、気持ち沈んだ声で『ずっと黙っとってごめんな?』とアコに謝らせてしまって、急いで体勢を戻して「アコが謝ることやない!」と首を振った。

「ちゅーか、そんなこと本人にペラペラ喋る方が嫌やわ」
『それもそうやな!』
「いやー、でもそっかぁ……アコはずっと知っとったんかぁ……」
『おん。そんときにな、今の立ち位置気に入っとるって言っとってんよ』
「そっかぁ……」
『あんまペラペラ喋ると怒られそうやからここまでな!あとこれ角名には内緒な』
「ふふ、はーい」

人差し指を口元に当ててそう言うアコに、私も同じポーズを取って笑う。もう十分ペラペラ喋っとると思うけどな。

『そろそろ寝たほうがええんとちゃう?』
「あ!ほんまやこんな時間!」
『ふふ、明日のことまた月曜日にでも聞かせてな』
「はいよ!服選ぶの手伝ってくれてありがとうな〜!」

ほな、と手を振りながら通話を切る。短針はいつの間にか11を指そうとしていた。アコと話してると時間があっという間に過ぎていく。
このままでは本当に明日遅刻フラグだと、部屋に散らかした洋服たちを雑に仕舞って、明日着る服は畳んで纏めて置いておこう。
明日きちんと仕舞うから許してな………!
アラームをセットして布団に入る。いつもはすぐ寝付けるのに、今日は少しソワソワ心が落ち着かなくて眠りにつけるまで時間がかかりそうだった。
遠足前の小学生かよって。





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