知りたくなった金曜日





「おはよ」
「あ、おはよー」
「っふ、」
「え?なに?!」

今日もおはようと声を掛けてきた角名に昨日と違って戸惑うことなくおはようと返せたのに、笑われた。
え?人の顔見て笑うってどういうことなん?!失礼すぎん?!
笑われた意図が分からずムッと眉を顰めれば「ごめんごめん」と片手を挙げて謝るも、その声は震えていて笑いを抑えきれていない。

「ミョウジの顔見たらLINEのアイコン思い出した……なんであのポーズなんだよ」
「あぁ、なるほど」

どうやら昨日変えたあのアイコンが角名のツボに入ったらしい。いまだクツクツと笑っている角名に、自席について同じポーズをして見せれば身体をくの字に曲げて笑い出した。こんなに笑ってる角名初めて見たかも。ツボから抜け出せない角名を横目に私は授業の準備を始めた。

▽▲▽


チャイムが鳴って、やっとお昼だーと腕を伸ばして仰反るように伸びをすれば、後ろから角名がヌッと私を見下ろしてくる。びっくりしすぎて固まってしまい、瞬きをパチパチと2回繰り返すしかできなかった。だってそんな急に後ろから角名が出てくるとか微塵も思わんやろ。
その様子に軽く笑いながら、手に持ったコンビニの袋を私に見せつけるように持ち上げる。

「昼、別のとこ行こ」
「え、あ、はい」

ゆっくりと腕を下ろして鞄からお弁当を取り出す。席を立つときにチラリとアコのほうを見れば、それはそれはいい笑顔で見送られた。なんか急に緊張してきてんけど……。
角名に連れられてやってきたのは空き教室。少し肌寒いけれど外よりは全然マシだ。角名が座った隣の席に座ればチラリとこちらを見てから、私の前の席の椅子をこちらに向けて座り直した。思ったよりも近いこの距離に、ちょっとドギマギする。それを隠すようにお弁当の包みを開いた。

「なぁ、質問してもええ?」
「どーぞ」
「……いつから?」

もそもそとおかずを摘みながら、冷静を装って尋ねる。内心ばっくばくやけど。……アスパラベーコンうまぁ。
昨日、アコに言われてずっと気になっとったこと。

「あー……気になる?」
「そりゃ、まぁ」
「だよね」

サンドイッチをパクパクと食べ終えて、パックジュースを啜る角名。言いたくないならいい、と言う前にパックを置いた角名の口が開いて、私は口を閉じた。

「1年前くらい」
「え?」
「ま、気づいたのが1年前ってだけで今考えると1年半前くらいかもね」
「ええ?」

1年前。それは私がちょうど先輩と付き合い始めた頃だ。
思わず食べていた口が止まる。あれ、でも確かアコに付き合うことになったと報告したとき近くにいて。角名もサラッと「へぇ、おめでとう」なんて言ってくれていた覚えがあるけど……あの時点ではどうだったんだろう。
なんて思い返していれば、私の考えていることになんとなく予想がついたのか「要するに、人に取られてから気付いた情けない男だって訳」と苦笑する。なる、ほど。

「じゃあ次俺から質問ね」
「え!質問返されるん?!」
「もちろん。ミョウジのことも聞かせてよ」
「うっ……」

「ね?」と意地悪そうに笑ってくる角名の顔が意外と、好きだったりするのだ。だって笑ってるときとはまた違う、楽しそうな顔だから。

「明日、暇?」
「へ?」
「部活オフなんだよね、どっか行かない?明後日でも良いけど」
「え、……え?」

予想外の質問に、口に運ぼうとしていた卵焼きがポトリとお弁当箱に戻っていった。そんな私を見てクスクスと笑いながら「卵焼きいらないならもらうよ?」なんて角名に言われてしまい、我に帰る。あかん、卵焼きはやらん。急いで卵焼きを口に入れてもぐもぐ、もぐ。

「んっ、と……明日はバイトあるから、明後日でどやろか……?」

卵焼きを飲み込んでそう伝えれば、ふわりと笑って「うん」と頷いた角名。初めて見たかもしれない柔らかい笑顔に、咽せかけた。

「バイト、ファミレスだっけ」
「せやよ、駅前の」
「今度行こーっと」
「あかんあかん!来んな!」
「来んなって、ひでぇ」

さっきの笑顔は消えていつも通りケタケタと笑う角名に、どこかホッとした。





×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -