そのワケは


校門の近くで前に見つけたピンク頭に、気持ち大股で近付いておはようと声を掛ければ、大袈裟に肩が跳ねる。そんなに驚かせたのかと少し申し訳なくなったが、それよりもギギギと音が鳴りそうなくらい不自然にゆっくりとこちらを向いて、ぎこちない笑顔でおはようと返してきた美奈子にどこか違和感を感じる。
動きと笑顔もそうだけど……あぁ。

「前髪、いつもと違うんだな」

違和感の正体は前髪。普段は横に流している前髪が、今日は下されていた。いつもソコに留められているヘアピンはスクールバッグに付けられていて、そんなにお気に入りなのかと思わず笑みが漏れる。俺が前髪の変化を指摘すると、焦ったように右手で抑えて、変かな? と不安そうに問う。

「新鮮でイイんじゃない? イメチェン?」
「あ、うん、そんな感じ!」

前髪を押さえた手を外すことなくそう言う美奈子に、またどこか違和感を覚えた。
ていうか、さっきから笑顔がぎこちなさすぎるんですけど……。
靴箱にローファーを入れるまでの間もその手はずっと外れることがなく、とうとう教室にまで着いてしまった。

「じゃあまたお昼にね!」
「あ、ちょっと……!」

普段なら予鈴の前まで他愛ないハナシでも繰り広げているのに、今日は逃げるように自席へと駆けて行った。
……エッ? 俺なんかやらかした?
思わずソコで立ち尽くしていれば、チラリと美奈子がこちらを振り向いて視線が絡む。……が、勢いよく逸らされてしまい、周りの喧騒が止んだように思えた。
待て待て、マジで俺なにかやらかしてる?
急ピッチで思考を巡らせるも、何も思い当たる節がナイ。無意識のうちにやらかしてるのだとすると余計ヤバイ気がする。
予鈴の音で我に帰り自席へと着いたが、正直午前の授業はなにも頭に入っていない。どの授業も当てられなくて助かった。

昼休み、いつもの場所に美奈子が居てくれてホッと胸を撫で下ろしたが、やはり頻繁に前髪を触って落ち着きがない。
「……美奈子、俺なんかしちゃったか?」
「へ?」
恐る恐る問うてみれば、目をまん丸にした美奈子の口から間抜けな声が漏れた。

「今日朝から避けられてる気がしたんで……俺がなんかしちゃってたなら言って欲しいんですけど……」
「……え?! 違う違う! 避けちゃってたけど七ツ森くんが悪いとかじゃないの!」

聞こえなかったのかともう一度砕いて問えば、ブンブンとすごい勢いで首を振ってそう言う。避けてたのを肯定されたのはかなりショックだが、俺がやらかしてたワケではないと分かって一安心。
でも、じゃあなんでだ?

「えっと……うーん……」

もごもごと口を開いては閉じて悩んでいる間も、その手は前髪に触れる。

「……び、がね」
「ん?」
「ニキビが出来ちゃったの……っ!」
「……へ?」

ひしっと両手でおでこを押さえてそう言い放った美奈子に、今度は俺の口から間抜けな声が漏れた。
……ニキビ?
予想の斜め上どころか、かなり上を超えていった答えに思わず呆気に取られる。

「……ニキビでなんで俺が避けられてたワケ?」
「恥ずかしいから」
「ハァ……午前中どれだけ俺が悩んだと思ってんの」
「だって、七ツ森くんにだけは見られたくなかったんだもん〜!」

バレたくもなかったぁ、と机に突っ伏す美奈子に俺も一緒になって机に突っ伏して長く息を吐く。
ハァ〜〜……こっちはマジ焦ってたっていうのに。でも全部杞憂でよかった。

「どこ?」
「え! やだやだ見ないで!」

そっと頭に手を伸ばせば、両腕で鉄壁ガードが建てられる。軽く掴んでみるも、退かすつもりはないらしい。

「……前髪の油分で余計酷くなりますよー」
「ウソ?! ……っわ!?」

ガバッと起き上がった美奈子の顎を掴んで、もう片手で前髪を避ける。

「あらら、ホントだ」
「ちょっ! 見ないでよぉ……離して……!」

いつも見えているおでこに、ぷっくりと小さな赤いニキビがいた。
肌が白いと肌荒れって目立つんだよな。
しっかりとそのニキビを確認できたら、真っ赤な顔で睨んできている美奈子のゴキゲンをこれ以上損ねる訳にいかないと、そっと前髪を戻す。

「早く治したいなら、せめて家では前髪は上げときましょーね」
「……はぁい」

緩く頭を一撫でしてそう言えば、唇を尖らせながらも返事をする美奈子が可愛らしい。

今度一緒にスキンケアでも見直しますかね。
とりあえず、カバンに入れてあったはずのビタミンCの飴はあとであげましょ。

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