あと幾許かの穏やかな鶏旦


少しの眩しさで意識が浮上する。重たい瞼を薄らと開ければ、眩しさの正体はカーテンの隙間から漏れていた朝日だ。
朝であると認識すると、ゆっくりとだが頭も働き出す。いつも一人で寝ているベッドなのに、背中に当たる温もりの正体についてもきちんと思い出して、そっと寝返りを打つ。すやすやと気持ちよさそうに眠る恋人の顔を見て、頬が緩んだのが分かった。
……寝起きにおっさんが一人でニヤけるのは危ねぇぞ。
緩んだ頬を揉みながらため息を零す。どうにも、この愛しい恋人を前にすると頬も気も緩んでしまう。ほんのひと月前まではあんなに毎日気を張って過ごしていたというのに、情けない。
起こさないように気をつけながら、目の前のピンクの髪をそっと撫でる。今何時だ、と頭上にある小さな置き時計に手を伸ばして確認すれば短針は4の数字を指していた。
まだ、起きるには早い時間だろう。今の俺には、まだ早い時間だ。
外からは可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえてくる。この声はスズメか。鳥は毎日早起きだ。
……起きるまで、寝顔でも眺めとくか。
あと少ししたらこの時間は忙しないものになってしまうのだ。今のうちにしっかりと堪能しておきたい。普段よりもゆったりと時間が流れている気がした。
手を頬へと添えればピクリと眉が動いて、起こしたかと不安になったが、瞼は閉じられたままで頬を擦り寄せてくる。その様子が可笑しくて、愛しくて、また頬が緩む。
なめらかな頬が俺の手の上を滑り、寝息が手のひらへと当たる。少しくすぐったい。
……そういえば、モーリィが赤ん坊の頃にも似たようなことがあった、と思い出して思わず口から漏れ出てしまいそうになった笑みを必死に飲み込んだ。たまに似たところがある大好きな2人に、幸せな気持ちになる。
早く会わせてやりたい。モーリィはどんな反応するだろう?歓迎してくれるか?それとも嫉妬するか?

「……ん、?」
「お、起きたか?」

なんて、近い未来について妄想していると、まん丸な瞳が半分だけ瞼から覗いた。頬にあった手を頭へと移動させ「おはよう」と撫でてやれば、ふにゃりと笑って「せんせぇだ」と舌っ足らずに零す。ここ数日呼ばれていなかったその“先生”という単語にドキリと心臓が跳ねた。
こりゃ、まだ寝惚けてんなぁ……。
瞼が完全に上がることはないまま「ふふ」と笑う恋人に、もうしばらくこの緩やかな時間が堪能できそうだと、半身を支えていた肘を倒してもう一度布団へ潜り込んだ。

BACK
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -