包み泣きのピリオド


「……実くん?」

ふと目が覚めると、隣で寝ている実くんの顔が険しい。苦しそうな唸り声も口から漏れていて、心配になって軽く揺すって起こす。ゆっくりと開かれた瞳は、今にも雫が落ちそうなくらい潤んでいた。その瞳が私を捕らえると一瞬びくりと身体が揺れたけれど、段々と焦点が合って私だと認識できたのか、美奈子か、と安心したように深く息を吐く。

「大丈夫?」
「……あぁ、うん、ヘーキ」

ズズっと鼻を啜って、心配かけまいと笑ってみせる実くん。だけど全然上手に笑えていなくて、胸がぎゅうっと痛くなる。
実くんの笑顔は大好きだけど、それは無理して笑うときの、私の苦手な笑顔だよ。
魘されているところは、前にも一度見たことがある。その日は起こすことはしなかったけれど、起きてからの実くんはさっきみたいに目に涙を浮かべていた。それを指摘すれば、あくびしただけだと誤魔化されてしまった覚えがある。
実くんの手を握ったままぐるぐると考えていれば無意識に力が入っていたようで、繋いでいない方の手でそっと包み込まれた。布団に入っていたその手は、思ったよりも温かくない。

「……情けないハナシだけど、聞いてくれるか?」

眉に八の字を寄せてそう問うてくる実くんに、もちろん、と頷いた。
二人で壁に凭れかかって座って、腰まで布団を掛ける。手は繋いだまま。
ふぅ、と緊張したような息を吐いてから、ぽつりぽつりと話し出す。私はただ、黙って聞いた。


中学の頃からよく同じ夢を見るんだ。
たくさんの人に囲まれた俺がいて、SNSの俺も学校の俺も、全部嘘なんだろって口々に言われる。
高校になってからはモデルの俺も、な
それで夢の中の俺は、本当の俺がどれなのか思い出せなくなっていって、その言葉に飲み込まれていくんだ。
唯一救いなのがそれを言ってくるヤツらが知らない人、ってコトなんだけどさ。
初めてその夢を見た日から、親しくない人が怖くなって、親しくなるのも怖くなった。
この人たちも夢の中のヤツみたいに思ってるんじゃないかって、偽った俺を見抜いてるんじゃないかって。
……どの俺が本当なんだろうな。
最近、夢から覚めても思い出せないんだ。


「っていうハナシ。情けないだろ?」

へらりとまた無理をして笑う実くんの頬を両手で挟み込み、ぐっと顔を合わせた。

「情けなくなんかないし、どの実くんも全部本物だよ」

驚いた顔をしていた実くんの顔が歪む。眉を寄せて泣くのを堪えてるみたいだった。私も鼻の奥がツンとしてきたけれど、実くんより先に泣いてはいけないと顔に力を込める。きっと今、向かい合って同じ顔してるね。

「私は、どの実くんもカッコよくて可愛くて、大好きだよ」

こつんと額を合わせてそう言えば、震えた息が漏れた。頬にある手に大きな手が重ねられて、縋り付くように強く、けれどどこか弱々しく握られる。
実くんの頬から落ちた雫がぱた、ぱた、と静かに音を立てた。

「思い出せなくなったら、私が何度でも言ってあげる。どんな実くんも本物で、私が大好きな実くんだよって」
「……ほんとに、あんたってコは」

ふっと、もう震えていない息で笑う。重ねられていた手が離れ、私の両頬へと移動して視線が絡み合った。少し赤くなった目尻を下げて笑ったその顔は、もう無理なんかしてなくて。

「ハハッ、なんであんたが泣いてんの」
「泣いてないもん!」

親指で目尻の涙を拭われてそっと頬に口付けられたから、お返しに唇を合わせれば、敵わねえと笑われる。
そう、その笑顔が良い。大好き。
もう、実くんが起きて1人で泣くことがないように。私は隣で、何度だって実くんの存在を肯定する。

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