マフラー


「あー……寒ッ」

頬を撫でる冷たすぎる風に、全身をぎゅっと縮こめる。早く春になれ、とまだ冬になったばかりの空を睨みつけた。

「七ツ森くん、今からそんなので冬越せるの?」

くすくす笑いながら、小さくなった俺を笑う美奈子に「余計なお世話ですー」と肩で軽く突く。
いいよな、ひとまわり以上も小さいあんたは。風の当たる面積が全然違う。ていうか、たまに「寒ーい!」とか言って風除けに使ってるじゃないか、俺のコト。
重装備な俺に比べてマフラーもしておらず、ミニスカートからはすらりとした生足が伸びているその格好は、見ているだけで寒い。
そういえば前にその脚、寒くないのかと聞いたら「脚が寒いのは慣れた!」となんとも男前な答えが返ってきたことがあった。
すげぇ、と純粋に尊敬。俺はどう頑張っても慣れそうにない。
これからの季節に始める春物の撮影とか本当ヤダ。モデルの仕事は好きだけどあれだけは好きになれない。
……うわ、考えただけで余計寒くなってきた。
ぶるりと自分を抱き締めて身震いすれば「そんなに寒い?」と笑いながらも心配される。
俺の顔を覗き込もうと頭を前に傾ければピンクの髪がさらりと揺れて、細い首が晒される。切り揃えられたボブヘアから覗く白い項に、思わず指が伸びた。

「うひゃ?!」
「……あ、悪い」
「な、なに?」

つぅ、と指を頸椎に沿って滑らせてみれば驚いたのか、間抜けな声を出してからその場所をバッと手で隠す。
なに?って言われてもな……。
あ、と思ったときには指が伸びてて。無意識に伸びてしまった指を眺めてから、閉じ込める。さっきまで寒くて仕方なかったはずなのに、指先からじわじわと熱くなった気がした。

「コレ、巻いときなさい」
「え!?」

自分が巻いていたマフラーを未だ隠されている首に掛ける。ぐるぐると、顔の下半分が隠れるくらい巻いてやる。

「七ツ森くん寒いんでしょ?」
「……あんたの首元見てるだけで余計寒くなんの」

ぷはっ!とマフラーを下げ、息継ぎしてから巻いたばかりのソレを外そうとする手を制止するように、ピンクの髪をかき混ぜた。綺麗に手入れされた髪の毛が、熱くなった指の間を通り抜けていく。

「ふふ、あったかい」
「だろ?明日からちゃんとマフラー巻いてくるんだぞ」
「はーい」
「イイお返事」
「……七ツ森くんのにおいがする」
「ハッ?!ちょ、やっぱり返せ!」
「やだー!」

首元のマフラーを離すまいと握りながら、俺から逃げるように走り出す美奈子を追いかけたせいで、寒さなんて感じないほど暑くなった。

「寒くなくなった?じゃあ毎日走って帰ろっか!」と笑顔で言い放った美奈子には、丁重にお断りをいれておいた。

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