ほかほかふくらむ、甘い朝


 ふと目が覚めて、枕元の携帯で時間を確認すれば8時前。休日にしては、まだ起きるのには早いかもしれないけれど、なんだかスッキリ起きられたしお腹も空いた。
 緩くお腹に回っている腕を解いて、静かに寝返りを打つと、すやすやと気持ちよさそうに眠る旬平くんの顔。普段より幼く見える寝顔が可愛い。昨日も遅くまでレポートと睨めっこしていたみたいだし、ゆっくり寝かせてあげよう。肩まで布団をかけ直して、頭をひと撫でしてからベッドから起き上がる。

「わ、冷た……!」

 ベッド下にスリッパが見当たらず、素足でフローリングに降りれば、その冷たさに思わず声が漏れた。その直後に、もぞりと布団が動いたから、旬平くんを起こしてしまったのかと焦ったけれど、聞こえてくるのは変わらず寝息だけでホッと胸を撫で下ろした。
 朝晩は肌寒くなったし、裸足じゃフローリングは冷たいし、もうすっかり秋になったんだなぁ。急に気温が下がると、夏のあのギラギラと暑い日が恋しくなってしまう。夏の間は暑くて文句を言うくせにね。
 冷たさから逃げるために、踵を浮かせながらひょこひょことキッチンへと向かっていれば、なぜか部屋の隅で2つ並んで置かれていたスリッパと出会った。旬平くんのスリッパもベッドまで移動させておこう。
 普段、二人で過ごす休日の朝ごはんはその日の朝に簡単に、適当に決めて済ましてしまうことが多い。でも、今日の朝ごはんのメニューは珍しくもう決まっている。
 昨晩、テレビを見て2人して食べたくなってしまったホットケーキだ。こんがりほかほかに焼かれたホットケーキに、じゅわりと溶けるバターが、とっても美味しそうで堪らなくて。こんな時間になんてものを、なんて言いながらも画面に映るホットケーキから目が離せなかった。甘いものがあまり得意ではない旬平くんから、「明日の朝ホットケーキにしねぇ?」と提案してきたくらいだ。まぁ、もしかすると私の顔を見てそう言ってくれたのかもしれないけれどね。
 カチャカチャと生地を混ぜていたところで、「おはよ」と背後からふわりと抱きしめられる。背中に当たる布団から出たばかりの体は、ほかほかだ。

「おはよう、もう少ししたら起こそうと思ってたところだよ」
「オレも一緒に起こしてくれりゃ良かったのにー。起きたら美奈子ちゃんいなくて寂しかったんですけどー」

 肩口に不満げにぐりぐりと頭を擦り付けてくる旬平くんに、昨日頑張ってたしゆっくり寝てほしかったのだと告げると「……そっか、あんがとね」と、ぎゅっと抱きしめる力が強まった。よしよし、と頭を撫でれば、今度は優しく頭を擦り付けてくる。ふふ、旬平くんの柔らかい髪が首に当たってくすぐったい。

「なんか手伝うことある?」
「あ、お湯沸かしてもらえる? こっちはあと焼くだけだから」

 紅茶用に、そうお願いすると「モチロン、お安い御用です」と、ちゅっと可愛らしいリップ音を鳴らして、頬にキスを一つ落としてからケトルにお水を入れる旬平くん。びっくりして、頬を押さえてポカンとしていれば「ほっぺじゃ足りなかった?」とニヤリと笑われてしまった。……もう! 
気を取り直して、温めたフライパンに生地を落としていく。じゅわ、と良い音を立てて丸く広がった生地は、ゆっくりと控えめに膨らんだ。バターの香りと生地の焼ける甘い香りが、空腹をどんどん刺激してきて、お腹鳴っちゃいそう……。

「ひっくり返すのやっていい?」
「ふふ、どうぞ」
「よっし、ジュンペーくんに任せたまえ!」

 いつの間にかフライ返しを持って、準備万端だった旬平くんが、ふつふつと小さな泡が出てきた生地にそーっとフライ返しを差し込んで「おりゃっ!」との掛け声で一気にひっくり返した。

「おぉ〜!」 
「ふっふっふ、さすがオレ!」

 綺麗にひっくり返った生地は、ふわっともう一段階膨らんでいく。その様子を二人で覗き込んだ拍子に、ふとコンロの下で指同士がぶつかった。そのままどちらからともなく、自然に絡まった指。
 チラリと目線を上げると旬平くんもこちらを見ていて、ふっと笑い合う。

「あー……なんか今、すっげシアワセかも」
「かも?」
「……ふはっ!もー、すっげシアワセ!」

 コンロの火をカチッと切る音と同時に、本日二度目のリップ音が口元で鳴った。



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