アモアス


画面に赤く表示された『インポスター』の文字に頭を抱える。マイクはミュートにしているけれど、なんとなく口を固く結んだ。出そうになったため息は、ぐっと飲み込む。
最近始めたこのゲーム、アモングアス。通称アモアス。クルーとインポスターに分かれてミニゲームをこなしながらの心理戦ゲームだ。
後輩の氷室君に誘われて始めたはいいものの、インポスター側になるとどうにも上手く嘘が付けずに毎回吊られてしまう。一度でいいからインポスターで勝利してみたい。
ゲームスタートの合図が鳴る。ドキドキと早足になり出した心臓を落ち着かせようと深呼吸。
まずはタスクをこなしているフリをしながらマップの確認。今回は広めの船だから、クルーが一人になる時間は十分にあるハズ。どこに行こうかと船内をうろうろしている間にも着々とこなされていくタスク。妨害行為もあっさりと解除されてしまう。
今日のメンバー、氷室君を含め猛者多いんだよな……。このままじゃタスク完了で負けるかも。……よし。次会ったクルーをキルだ。
そう決めて目についた部屋に入る。誰かが来てしまう前にそっとダクトの中に入り、クルーを待つ。ゲーム機を握る手に力が入った。
全身赤色のクルーが部屋にズカズカと入ってきて、タスクを始める。2秒心の中で数えてからダクトから飛び出した。
Xボタンを素早く押して、キル。……ゴメン。
一人キルできたことにホッと息を吐きそうになったけれど、そんな暇はないのだと我に帰る。急いで隠れろ、とまたダクトの中に入って誰も居なさそうなところに飛んだ。
タスクは多分あと二つくらいか。もう一度妨害行為のボタンを押せば、途中で誰かがキルされたクルーに気付いたようで通報が入る。
一つ、大きく息を吐いてからミュートを解除した。
第一発見者がどこで見つけたのか、他の人はどこにいた? と犯人探しが始まる。スマホで開いたマップとにらめっこしながら、どこで何をしていたと話そうか急いで考える。
この時間、テスト前並みに頭を働かさせてる気がするな。

「……先輩は? どこにいました?」

氷室君からそう声を掛けられて心臓が跳ねる。
なんか既に疑われてそうな気がしてコワイんですけど……。
「オレは……」

精一杯平静を装ってマップをなぞりながら答えていれば、途中で誰かが「え?」と漏らす。なんだ? と考えるよりも先に自分が矛盾したことを言ったのに気付き、思わず「アッ」と声に出してしまった。口元に手を当てたものの、もう時すでに遅し。やらかした。
ヘッドホンから聞こえてくるクスクスした笑い声は氷室君のものだろう。

「先輩、自滅おつでーす」
「ハァ〜〜」

オレに全票が入り、あっさりと敗北。ちなみにオレは、笑われたことにちょっとムカついたから氷室君に投票しておいた。
時間的に今の回で解散となり、氷室君とだけ通話が繋がれた状態になる。このあともまだ違うゲームをプレイする約束をしていた。夜更かしのできる連休バンザイ。

「ホント、嘘下手ですよねミノル先輩」
「いやムズイって……どうやったら氷室君みたいに、さらっとウソ吐けるんだ……」

プレイ回数の差もあるかもしれないけれど、氷室君はインポスターもめちゃくちゃ上手い。サラサラと氷室君の口から紡がれるアリバイがウソだなんて、見抜きようがない。あとキルも容赦なくて素早い。氷室君が強すぎなんだよ。

「オレ普段からウソ吐けないからなぁ」
「……ちょっと、人が普段から嘘吐きみたいに言わないでくれます?」
「ハハッ」
「否定は!?」
「さてと、次行きますか〜」
「ちょっと!」

氷室君を揶揄ってみたせいで、この後のゲームで地獄を見ることになるまであと5分。

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