爪に乗せる色は


遅くなっちゃった……!
待ち合わせ場所までの道を早足で歩く。新しいヒールでは早歩きが精一杯だった。
スマホを持った指の先が、キラリと光る。先ほど初めて施術してもらったジェルネイルのストーンだ。
長さ出しはしなかったけれど、形も綺麗に整えてもらい、好きな色や飾りを乗せてもらっただけで気分が上がった。
そのネイルのデザインに悩みすぎて予定時間をオーバーしてしまったから、今早足で歩く羽目になっていたりするのだけれど。色はすぐに決まったけれど、可愛いデザインたちの中から1つに絞るのが難しかった。
でも高校生のときから憧れていたネイルなんだから悩んでしまったのもしょうがないと思う、なんて言い訳を心の中でする。
今までもポリッシュを塗って楽しんだことはあったけれど、登校する日には落とさなくては行けないしと面倒になって、久しく爪に色を乗せていなかったから余計に心が弾んでいた。
功さん、何か言ってくれるかな……? ていうか、ネイル苦手だったらどうしよう……!
ド派手ではないものの、しっかりと色も飾りも乗せられた爪を見ながら今更すぎる不安が襲う。いつか見た雑誌で、ネイル嫌いな男の人が意外に多いと書かれていたことを思い出した。
待ち合わせ場所までもうすぐそこなのに、段々と脚が重くなる。
嫌な顔されたら、凹むなぁ……。

「美奈子?」
「……あ、」

俯きながら歩いていたら、目の前に功さんがいて。
爪を隠すように握りしめ、サッと背中に隠した。

「どうかしたか?」
「いえ、遅くなっちゃってごめんなさい!」

私の様子に不思議そうにしながらも、「行こうか」と歩き始める。隣に並ぶとどちらからともなく、自然に手が繋がれる。繋いでしまえばネイルは見られないだろうと安心したのも束の間、功さんの指の腹が私の爪を撫でた。

「ん?」
「あっ!」

繋いだまま手を顔の高さまで持ち上げられ、功さんはまじまじと私の手を眺める。

「ネイル?」
「……はい、さっきしてもらってきて」
「へぇ」

絡んだ指を解き、手を取るようにして一本一本親指で撫でながらネイルを見ていく。ストーンが付いている指は、興味深そうに横からも眺める。
じっと真顔で見られるもんだからどう思われているのか一切分からなくて、私の表情は強張っていった。

「あの……」
「あぁ、ごめん」
「ネイル、嫌いですか?」

私の問いを聞いて、小首を傾げた功さんはもう一度ネイルを眺めると「今までは興味もなかったし、見てもなんとも思わなかったけど」と視線はこちらに寄越したまま、そこに軽く口付ける。
突然の行動に肩を跳ねさせた私を見て、ふっと笑われた。

「君がしてるのは可愛いなって思う」
そう微笑んで、絡め直された指。緊張して冷えていた指先に、じわりと熱が戻ってくる。
「それに、オレの髪とお揃いだろ?」
「!」

たしかに、お店でデザインを見せてもらったときに1番に目に入った赤は、功さんの髪と同じだなと思って選んだ。その時の心の中をまるで見透かされたみたいで、可愛いと言ってもらえた嬉しさよりも、恥ずかしさが少しだけ上回った。

「あれ、違った? ただの偶然か」
「ひ、必然です!」
「ははっ、必然ね」
「もう! 行きますよ!」

恥ずかしさを隠すためにズンズンと大股で歩き始める。その足取りはさっきとは段違いに軽くなっていた。
脚の長い功さんはすぐに私に追いついて、隣に並んだら「次はピンクが見てみたい」なんて楽しそうに笑うのだ。

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