シャボン玉とんだ


公園に入る手前、どこから沢山のシャボン玉がふわりふわりと飛んできた。
誰かが遊んでるのかな?
久しぶりに見たシャボン玉にほっこりしながら待ち合わせ場所へと足を進めれば、さらに増えていくその数にもしかして……なんて頭の片隅に浮かんだ予想は的中する。シャボン玉を吹いていたのは小さな子どもではなく、スラリと背の高い一つ年上のお兄さんだった。
空也さん、とその人の名前を呼ぼうとしたけれど、私の口は間抜けに半分開いただけで声は出なかった。
ふぅ、と吹き棒に息を送り込んで、ゆったりと出てくるシャボン玉。
その動作を繰り返す空也さんが妙に儚くて、綺麗だったから。
吹き棒に付いた液を全てシャボン玉に変えたところで、空也さんと目が合った。一瞬キョトンとした顔を見せたあと、柔らかく微笑む。

「いつから見てたの?」
「ふふ、今さっき来たところです。それ、どうしたんですか?」
「シャボン玉のこと?」
「はい」
「今日ね、シャボン玉に乗ってる夢を見たんだ」

また困ってる誰を助けたときに貰ったのかなとか、私が来る前に子どもと遊んでたのかな、と思っていたのに予想の斜め上の答えが返ってきて思わず聞き返す。

「夢? ですか?」
「うん。ボクがシャボン玉に乗ってふわふわ浮かんでる夢」

そう言ってまた一つ、今度は大きめのシャボン玉を作って飛ばす。春めいてきた風に乗って、ふよふよとゆっくり空に向かって上がっていく。

「それでね、夢には君も出てきたんだよ」
「私?」
「そう。風に流されてふわふわ浮かんでたボクのシャボン玉が電信柱に当たって割れて、落ちたところに君がいた」

もう一つ飛ばしたシャボン玉を指先でパチンと割ってみせて、くつくつと楽しそうに笑う。

「シャボン玉は前のボクみたいだなって思ったら、この青空に飛ばしたくなっちゃって」

前のボク、とは空也さんが高校三年生までのことを言ってるんだろうなと続々と飛ばされるシャボン玉を眺めた。

ふわふわ、ゆったり、ゆらゆら

以前の空也さんはそんな言葉がぴったりで、確かにシャボン玉みたいだった。儚くて、どこかに飛ばされてしまいそうな。
それでも、変わらなきゃとパチンとそのシャボン玉を割ったのは空也さん自身なのを私は知っている。空也さんが自分で割ったから、私たち2人は今隣を歩けているとも思っていた。

「空也さん」
「うん?」
「私も吹いていいですか?」
「もちろん。君の分もあるよ」

そう言ってポケットから出てきた吹き棒とシャボン玉液。ポケットが膨らんでるなと思ってたけど、まさかもう1セット入ってるとは。
液をつけた吹き棒を唇に挟むと、シャボン玉独特の、懐かしい香りが鼻を抜けていく。

2人で並んで吹いたシャボン玉は、キラキラと輝いて色を変えながら空へと飛んでいった。

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