我儘なクリスマス


テレビから聞こえてる楽しげなクリスマスの様子に、昨日の私なら一緒になって歌い出すくらいルンルンになっていただろうけれど、今は少しだけ苦しくなってしまう。全然盛り上がれない。
今日は12月25日。クリスマス。
恋人である実くんとは、このあとデートの約束をしている。それなのにこんなにもテンションが低いのは朝から続く頭痛のせいだ。じっとしていてもズキズキと痛む頭に、準備もなかなか進まない。
今日のデート、クリスマスというのもあってすごく楽しみにしていたし、こんなに直前になってドタキャンなんてできるわけなくて。縋るように服用した痛み止めに効いてくれと祈るしかなかった。
だってそれに恋人になってから、初めてのクリスマスなんだもん。楽しい思い出にしたいよ。

なんとか準備を終えて待ち合わせ場所へ。この日のために買った新しいワンピースとヘアアクセ。とっても可愛いこれを実くんに見てもらわなきゃもったいない。未だに痛む頭は無視だ、無視。
他より一つ飛び出たピンクの頭を見つけて駆け寄れば、私に気付いた実くんの口元が緩く弧を描く。

「オハヨ」
「おはよう!」
「そのワンピースが言ってたやつ? カワイイ、似合ってる」
「えへへ、良かった。実くんに早く見せたくてうずうずしちゃってた」
「ハハッ、そっかそっか」

ワンピースの裾を広げるようにくるりと回って見せれば、おぉ〜と拍手をくれる。回った拍子に大きくズキリと痛んだ頭に、一瞬だけ顔に力が入ってしまった。
痛み止め、まだあんまり効いてくれないなぁ。

「実くん?」

行こう、と手を繋いで歩き出そうとしたのに実くんの足は止まったまま。

「どうかした?」
「それはこっちのセリフ」
「え?」

ぐっと身体を曲げて私の顔を覗き込んだ実くんの眉が歪む。

「やっぱり、顔色悪い。調子悪いんじゃないか?」
「え、っと……」

メガネの奥からじっと見つめられて、思わず視線が泳ぐ。それが答えだと受け取った実くんは一つ息を吐いた。
あぁ、ガッカリさせちゃったかな。今日は帰れって言われちゃうかな。
ごめんなさいと言おうとするより早く、行き先とは反対方向へと手を引いて歩き出す。今、私が来た道。やっぱり帰らされちゃう。やだ、と今度は私が足を止めて実くんを引き止めた。その様子に軽く笑って、宥めるように私の頭を撫でる。

「……帰るの?」
「あぁ。俺の部屋に、な?」
「え、」
「予定変更、今日はゆっくりお家でクリスマスだ」

予想外の返答に、俯いていた顔を上げるとちょっと眉を下げて笑う実くんと目が合って、本当は帰ったほうがいいんだろうけどな?と小さく呟く。

「でも折角カワイくおめかししてくれたあんたを帰したくないっていう俺のワガママ、聞いてくれるか?」
「……うんっ」
「辛くなったら即寝かしつけるからな」
「ふふ、はーい」

さっきよりもすっかり軽くなった足を、2人揃えて進めていく。予定は変わってしまったけれどチキンとケーキでも買って行こうかとか、何しようかと話しているだけで、素敵なクリスマスになる予感がする。というかもう、実くんの優しさだけで素敵な日になっているのは間違いないんだけどね。
今度、クリスマスリベンジとしてデートプランを私が練って、実くんへ素敵な日をお返ししなきゃだな。

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