よしよししてください


「ただい、うおっ」

ただいま、と言い切る前にお腹辺りに衝撃が来る。少しよろけたものの、突撃してきたピンク頭をしっかりと受け止めた。

「なんだ、どうした?」

ぐりぐりとお腹に頭を押し付けて、背中に回された手は洋服を握り締めるも、何も言わない。

「玄関寒いから、とりあえず部屋行こう? な?」

微かに頷いたものの動く気配がない。両腕ごと抱き締められているせいで美奈子を運ぶこともできなくて、仕方なくお腹に引っ付いた美奈子を引き摺るようにして部屋へと向かった。

「ハイ、ここ座って」

ソファに座らせても離れない腕をそっと解こうとすれば、イヤイヤと首を振られてしまう。
上着脱ぎたいんだけどな……まぁいいか。
隣に座っても未だ黙り込んだままの美奈子の脇に手を差し込んで、軽く持ち上げて俺の膝へと座らせる。
やっと顔、見れた。
突然のことに驚いてパチクリとさせているその目には、今にも零れ落ちそうなくらいの涙が溜まっていて。目が合うと眉間と結ばれた口元にぎゅっと皺が寄る。頭を撫でて、どうしたのだともう一度聞けば俯いてしまい、その拍子にぽたりと一粒涙が落ちると堰を切ったようにぼたぼたと涙が続いた。

「うぅ〜……!」
「あらら……よしよし、」

唇を噛み締めて唸る様に泣く美奈子の頭を自分の胸に引き寄せて、まるで子供をあやすように背中を撫でる。
しばらくそうしていると泣き止んだのか、胸に埋まったままで、ごめんねと聞こえてきた。

「なにがゴメン?」
「突然泣いちゃって?」
「疑問系なんだ?」
「うん……」
「顔見せて」
「えぇ〜……絶対ひどい顔してるのに……」

渋っている美奈子の顎を撫でれば、擽ったそうにしながらおずおずと顔を上げる。
目も鼻も、真っ赤だ。
赤い鼻をちょんと突くと、頬を膨らませて潤んだ瞳で睨んでくる。
カーワイ。

「で、なんで泣いてたワケ?」
「んん……」
「言えないコト?」
「ちが……っ!」

ぶんぶんと首を振って、違うの、と必死に否定する美奈子をまた背中を撫でて宥める。ゆっくりでいいよ、と。

「なんかあったとかでもなくて……あのね、自分でもよく分からないんだけど、モヤモヤ? して……なんか、疲れちゃって」
「そっか、心が疲れちゃったか」
「うん……」

よいしょ、と美奈子を抱え直して頬を両手で挟む。泣いて火照った頬は、外で冷えていた俺の手には心地よかった。

「今日はいっぱいゆっくりしよう、明日も休みだしな」
「ん……」
「なにかしてほしいコトは?」
「……ぎゅーと、ちゅー」
「ハハッ、お安い御用だ。いっぱいしてやる」

ちゅっと音を立てて唇を奪えば、へにゃりと表情を緩ませた。まだ涙が溢れそうな目尻にも、赤い鼻にも、ひとつずつキスを落としてもう一度、唇に。

「ふふ、ありがとう」
「まだまだするぞ?」
「きゃ〜!」
「きゃーってなんだ、コラ!」

覆い被さるように抱き締めると、捕まった〜!と楽しそうに笑う。
うん、あんたは笑顔が一番だ。どんな顔だって可愛くて、愛しいけれど、やっぱりその顔が似合うんだ。

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