どうか温かいままで


「新作今日からだ!帰りに寄りたい!」
「あー?またあそこの?」
「そうそう!今度はイチゴだって!」
「本当好きねえ」

期間限定なのが悪いの!
学校へと向かう電車の中でネットサーフィンをしていれば、私の好きなコーヒーチェーン店の期間限定ドリンクが今日から販売開始との情報が。今日は午前練だけの日なのでタイミング良し男すぎる!これを楽しみに今日は頑張れる!いや、いつも真面目に頑張ってるけどね?!

「研磨は?行く?」
「いい、2人で行ってきて」
「ちぇー」

右隣に座るでっかいほうの幼馴染は反応してくれたが、左隣のちっこい幼馴染は反応してくれなかったので誘ってみればなんとも連れない返事。ちっこいっていっても私からすれば十分でかいんだけどねぇ。2人ともいつの間にかこんなに育っちゃって!まったく!

▽▲▽

部活終わり、鉄朗と2人で3つ先の駅のショッピングモールへ向かう。せっかく午後がフリーの休日なのだからカフェだけじゃなくてお買い物したい!という私のわがままを聞いてくれたのだ。マネージャーである私よりももっと動き回っている鉄朗のほうが疲れてるだろうに。そう分かっているのに甘えちゃう私も私なのだけどさ。2人で出かけるのなんて滅多にできないし、デート気分味わいたかったんだよねぇ。なんとなく私の気持ちに気付いてそうな研磨だから、気を利かせてくれたのかもしれない。

「んで、なにが見たいんですかナマエちゃんは」
「んーとね…ヘアクリップ壊れかけてるから新しいの買いたい!」
「部活んときしてるやつ?」
「そうそう、お気に入りだったけどもうダメそうなの」

部活中、セミロングの髪をひとつにまとめてくれているクリアブルーのヘアクリップ。縁にストーンが付いているだけのシンプルなデザインだけれど、初めて付けた日に「いーじゃん」って鉄朗が褒めてくれたからお気に入りだった。いつもあんまり褒めてくれないからキュンとしたなぁ。
なんて思い出に浸っていたらアクセサリーショップに到着。鉄朗はお店の外で待っているのかと思えば、一緒に見てまわってくれるらしい。キラキラしたアクセサリーショップにでっかいスポーツバッグを持った鉄朗はちょっとミスマッチでクスッと笑ってしまったのは内緒。

「クリップってこういうの?」
「うん!大きめのが使いやすくていいかなぁ」
「…これは?」
「かわいい!しかも音駒カラーだ!」

鉄朗が見せてきたのは赤いマーブルカラーのヘアクリップ。三角のシルエットで使いやすそうだ。

「これにしよーっと」
「はやっ。他にも見てみなくていいの?」
「いーの!」

せっかく鉄朗が選んでくれたんだもん。これに決めるしかないじゃない!これで明日からの部活も頑張れちゃう!

「選んでくれてありがと!」
「いーえ」
「鉄朗は?どっか見たいとこないの?」
「んー別にねえ」
「そっか。付き合わせてごめんね?」
「俺が来たくてきたんですぅ〜。ほら、ちょうど15時だしカフェ行くぞ。」
「ハッ!そうだったイチゴ!」
「おい、そのために来たんだろうが!」
「いてっ」

イチゴのことすっかり忘れてて鉄朗に小突かれた。だって鉄朗にヘアクリップを選んでもらえたことが嬉しすぎたんだもん〜。

「今日はナマエちゃんが奢っちゃう!何がいい?」
「おー、じゃあホットのなんか。お前が飲みたいやつでいいよ」
「ホットなの?暑くない?」
「ホットな気分なの」
「ふーん?じゃあ私のおすすめのにしよー」

今日暖かいのにホットの気分らしい鉄朗を不思議に思いながらも注文を済ませてドリンクを受け取る。イチゴいちご〜!とノリノリで席まで向かえば、転ぶなよと背後で笑われた。さすがにここで転んだら恥ずかしすぎるよ。あ、ふかふかの席が空いてる、ラッキー。

「んー!おいし!」
「しあわせそうな顔だこと」
「美味しくてしあわせだもん!」

ちゅー、とストローを吸えば冷たくて甘酸っぱいイチゴ味が口いっぱいに広がった。イチゴ好きには堪らない。夢中になってちゅーちゅー吸ってればまた笑われて。ストローから口を離さずにじとりとした視線を向ければ今度は笑いながら携帯をこちらに向けてきたので、ドリンクを持っていない方の手でピース。こうやってたまによく分からないタイミングで撮られるのはなんなんだろうか。

3分の2ほど飲んだところで身体が冷えてきた。うぅ、一気に飲みすぎたかも…。持っていたドリンクを机におけば、スッと目の前からドリンクが消えて代わりにマグカップがやってくる。

「交換な」
「え」

鉄朗はそう言って私のドリンクを飲み出した。マグカップの中身はまだ全然減っておらず、温かさを保っていた。ニヤッとした顔でこちらを見ている鉄朗。…まさか、ホットドリンクを譲らなかったのはこのため?
んもおおお…かっこ良し男かよ!!!優男!!!これ以上私の心を鷲掴みにしないでくれ…!にやける口元を隠すようにマグカップに口を付けた。あったかい。

席を立つときに「ありがとう」と伝えれば「なんのこと?」ととぼけられてしまった。

そういうとこだぞ!ばか!すき!!



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