夜泣きのまどろみへ
「うぅ〜!もぉ、つかれたやだ!!」
「うぉっ、」
帰って来てからどこか元気のなかったナマエが、夕食後ついに泣き出した。
クッションをぼふぼふと叩き、俺に向かって投げつけてきやがった。当たる前にキャッチしたけど。顔面狙いだったろ、いま。
もう1個のクッションも投げようとするもんだから、手首を掴んでクッションを取り上げた。そのままソファへと誘導する。
「はいはい、座りましょうねー」
「子供扱いするなばか!ばかばか!!」
こうなったときのナマエは精神年齢が小学生くらいまで下がっている気がする。ばかしか言わねぇ。そんなことを言ったら火に油なので口には出さないけれど。
ソファに座っても、あーだのうーだの喚きながらジタバタと暴れるナマエ。そしてローテーブルにあったリモコンをあろうことか床にぶん投げた。まじか。
ガシャン、と大きな音が部屋に響き、床に投げつけられた衝撃で電池蓋がリモコン本体から外れて飛んでいく。ナマエにも予想外の大きな音だったようで、ビクッと肩が跳ねたあと大人しくなった。
「あーあ、もう」
「ごめ…なさい」
怒られると思ったのか、少し怯えた顔でこちらを見上げている。別に怒るつもりなんてない。膝の上で握り締められた両手に、そっと自分の手を重ねてから、もう片方の手でナマエの頭を抱き寄せた。ちょっと勢いをつけすぎたようで、胸板に顔がぶつかったときに「んぶっ」と潰れたような声が聞こえた。…ゴメンネ。
「もー、お前モノに当たったらあとで絶対凹むんだからやめて。」
「大人しく鉄朗クンの胸で泣いててくださーい」
そう言えばちょっと迷った様子を見せたあと、俺の膝に乗り上がって首に腕を回してくるナマエ。コアラかよ。
首元に顔を埋めて、先ほどとは打って変わって静かに泣き出す。「疲れた」とか「しんどい」とか「ばか」と小さく漏らしながら。
背中をトントン、と撫でながら泣き止むのを待った。
数分すれば聞こえてくるものが泣き声から寝息へと変わっていて、思わず軽く吹き出してしまった。
泣き疲れて寝るって…コアラじゃなくて赤ちゃんだったかー。
よいしょ、とナマエを抱え直してゆっくり立ち上がり、ベッドへと向かう。まだ寝るには早い時間だが、このまま寝かせておこう。もし夜中起きてきたらまた構ってやればいい。
なんか前より軽くなってねえ?明日は休みだし、前に食べたいと言っていたケーキでも買ってくるかね、なんて考えながらナマエをベッドへ寝かせた。
「明日はいい笑顔でいてくださいネ」
おやすみ、とキスを落として寝室をあとにした。