甘いのをちょーだい


「今日キスの日なんですってよ、倫太郎クン」

目の前のソファでのんびりとしている恋人にそう伝えてみれば「へぇ」と、なんとも興味なさげな返事が返ってきた。スマホから目も離さずに。

「興味なさすぎじゃん!」
「だってキスなんて毎日してんじゃん」
「それはそうなんですけどぉ…」
「女子ってそういう〇〇の日、とか好きだよね」

たしかに毎日している。ただ、毎日しているとはいっても就寝前の挨拶みたいなキス。軽く触れるだけのキスだ。
最近はお互いに忙しくてそういった行為もご無沙汰しているし、久しぶりに倫太郎からの甘いキスが欲しかった。
久しぶりにお互い何も用事のない休日で、そのうえキスの日ときた。
なのにノって来ない恋人よ…!!
まぁ、倫太郎がノって来てくれるタイプではないのは重々承知しているけれども。
甘いキスがしたいとか、それ以上のことがしたいとか、思ってるのはもう私だけなのかな。長く一緒にいると異性として見れなくなるというのもよく聞く話だ。
同棲当初は家でも可愛く在りたくて部屋着やパジャマも凝っていたけれど、今ではダルッとしたTシャツに短パンだし。家ではいつもすっぴんだし。ちょっと太ったし。
悶々とネガティブ思考が頭に広がって、視界が歪んでくる。
私がズズっと鼻を啜ったのを疑問に思った倫太郎がこちらを見てギョッとする。

「え、泣いてんの?」
「うぅ〜、」
「なに、どうしたの」

泣くつもりなんてなかったのに。早く泣き止まなきゃ、と思えば思うほど涙が溢れてきて止まらなかった。隣に来て背中をさする倫太郎の手の温もりがさらに涙腺を刺激する。
嗚咽とともに私の中に溜まったネガティブを吐き出せば、頬を両手で包まれて強制的に上を向かされた。今絶対酷い顔になっているからやめてほしい。抵抗しようと思ったけれど、倫太郎の顔を見たら抵抗する力も抜けた。怒っているか呆れているかのどちらかだと思ったのに。ちょっと眉尻を下げて、困ったように微笑んでいた。

「バカだね、ナマエは」
「だって、」
「うん、不安にさせてるとは思わなかった。ごめん」
「…ちゅーして」
「っふ、はいはい」
「ん、」
「ちょ、んぅ」

軽く触れるだけのキスで離れていこうとするもんだから倫太郎の後頭部に手を回して、もっと、と強請るように口付ける。
離すもんか。
たっぷり甘いキスをちょーだい。



キスの日 2021

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