とんでった


今日は、まだ5月だというのに夏を思わせるような暑さだった。蒸し暑さもあって夏よりも酷いかもしれない。たまらず部活の休憩時間に水鉄砲を持ち出してびしょ濡れになるまで遊んだ。北さんに見つからないように隠し置いていた水鉄砲。思ったよりも早い出番だった。
始めは治と角名、銀の4人で遊んでいたところに、下校しようとしていたミョウジも途中から参戦。うっかり水を掛けてしまったのを装ったが、実のところ狙ってやったことだった。おっとりしているのに意外と茶目っ気のあるミョウジのことだから、混ざってくれれば良いなと期待を込めて。期待以上にがっつり参戦されてしまい、制服を透けさせてしまうハプニングに見舞われたが。しかも本人は気づかずそのまま帰ろうとするし、着替えも持っていなかったし。透けたその肌を他の奴らには見せたくなかった。


ミョウジとは2年連続で同じクラス。なんの縁なのか席替えをしても大体近くにいて、いつの間にか仲良くなっていた。前後左右で連続して並んだときは2人で腹を抱えるほど笑った。

「ミョウジ、俺のこと好きすぎやろ!」
「侑が私のこと大好きなんやろ〜?」

こんな冗談を言い合うくらいの仲だったのに。いつから俺の中で冗談ではなくなってしまったのだろう。気づけば恋に落ちていた、なんてドラマの中だけだと思っていたが、まさか自分の身に降りかかるとは。今では席替えをする度に隣になれるよう祈っている。「また近いな!」と俺に向けて笑ってほしい。

▽▲▽

「侑おはよ」
「おー、はよ」
「これ」
「なん?」

翌朝、朝練を終えて教室に入れば待ち構えていたようにミョウジから声をかけられた。これ、といって手渡された紙袋。中を覗けばタオルだった。あぁ、昨日のか。

「ありがとうな、助かりました」
「これからタオルとTシャツ常備しときや、いつ水浸しになってもええように」
「っふ、せやね!これからどんどん暑なるもんなぁ」
「毎回未使用のんあるとは限らんからな!」
「はーい!あ、角名にも返してこんと」
「…ちょ、待ち。」
「え、なに」

1組へ行こうとするミョウジの腕をとっさに掴んで引き止めてしまった。まだ話してたい、行かんといてなどと考えてしまい、思わず。俺こんな格好悪い男やったっけ、余裕なさすぎんか。借りたもん返すだけやん。

「お、俺が角名に返しといたるから貸し!」
「えーなんで、自分で返すて」
「ええから!ほら席戻んで!」

ぶつくさ言っているミョウジの手から角名への紙袋を掻っ攫って、背を押して席へと誘導する。ちなみに今は斜め前にミョウジがおる。自分の席に荷物を置いてからミョウジの前の席に座って、支度をしているミョウジを眺めた。髪の毛サラサラそうやなぁ…。

「あ、なぁ。侑が使てる制汗剤ってなに?」
「え!汗匂うか?!」

急な制汗剤の話題に、朝練終わりだったから臭かったのだろうかと一気に不安になって自分を嗅いだ。ちゃんと爽やかな香りしとると思うんやけど…!?

「逆や逆、ええ匂いやねん。あれすき。昨日のタオルからもその匂いしたから」
「!?そ、そうなん!あれや、あの、液体の!それの黄緑色!」

においのことだと分かってはいるが、好きな子の口から出た「すき」に心臓が跳ねた。ミョウジの「あれすき」が、頭の中でリピートされる。あれすき…すき……俺もすきぃ……。
ウッ、と胸を押さえて机に突っ伏してしまう。
突然突っ伏した俺が心配になったのか、ミョウジが「どないしたん、侑、具合悪い?」と顔を覗き込んできてしまった。…ちっっか!なんやねん追い討ちかけに来んでくれ!弄んどんのかコイツぅ!!

「っ、なんもあれへん!アホミョウジ!!」
「はぁ〜!?なんやねん昨日からアホアホ言い過ぎとちゃう?!」
「うるさい!アホなもんはアホやねん!!」

席戻る!と謎に宣言をして、すれ違いざまにミョウジの頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。仕返しじゃボケ。お前はなーんとも思わんのやろけどな。


指通りの良いミョウジの髪の毛の感触が、無駄に手に残っていた。


BACK
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -