背伸びしたまま連れ出して


普段より少しキレイめなワンピースに、お気に入りのパンプス。瞼には上品なラメを乗せた。別に大人っぽく見せる必要なんてないけれど、なんとなく背伸びしたくなるのが同窓会だ。

数年ぶりに会う友人たちと「久しぶり〜!」なんて言い合いながら、美味しいご飯とお酒をつまむ。
制服を着て、教室でわちゃわちゃしていた人たちでお酒を飲むのはやっぱり不思議な感じ。
前回の同窓会でももう成人済みでお酒は飲んでいたのだけれど、きっと何度でも思ってしまうんだろうな。
開始から大分経って、お腹もいっぱいになってきたところで会場の入り口辺りが騒つく。なんだろう? と遠目から眺めていれば「コヅケンだ!」との声が耳に入って、身体がピクリと反応した。
隣にいた当時のいつメンが私の名前を呼びながら、バシバシと肩を叩く。チラリと見えたプリン頭に、思わず持っていたグラスを落としそうになって慌てて側の机に避難させた。
入口が騒ついた原因は、今やコヅケンというハンドルネームで世界的に有名な配信者になった元クラスメイトの孤爪くん、だ。
そして、私が高校時代思いを寄せていた人。というか今もまだ思いを寄せている。
いや、あのときとは違くて!ファンとして!
……たぶん。
「ナマエ、話に行かなくていいの?」と聞いてくれた友人には「いいの」とだけ答え、少し風に当たりにテラスへと出た。
本当は話しに行きたかったなぁ……でも、あんなに囲まれているところへ飛び込んで行くなんて無理だし。さっき入口付近に居ればよかったぁ……。
なんてタラレバを唱えながら、柵にもたれ掛かってちびちびとお酒を飲む。火照った頬に冷たい風が心地良い。飲み過ぎたかも。

「そろそろ帰るかぁ……」
「帰っちゃうんだ?」
「え!?」

ポツリとこぼした独り言にまさかの返答。声のした後ろを振り返ってみれば、そこに立っていた人物にまた「エッ!?」と間抜けな声が漏れた。
話したいな、顔だけでも見れたらな、と思っていたコヅケンこと孤爪くんが。いた。
フォーマル寄りの服装に、ざっくりとハーフアップにまとめられた髪の毛。昔と変わらない猫背で、ぱっちりとした目でこちらを見ていた。
その目に吸い込まれる感覚に、外気で冷えたはずの頬がまた熱くなるのが分かった。
な、何か言わなきゃと絞り出した「久しぶり!」に「うん」と答えて私の隣に来る。

「こっち来ちゃって大丈夫だったの?さっき囲まれてたけど……」
「あんなの、面白がって集まってきただけだから」
「そっか……孤爪くん、前回の同窓会は来なかったから今日も来ないかと思ったよ」
「まぁ忙しかったし……今日も、迷ったんだけど」
「けど?」

カチリと、グラス同士がぶつかって音が鳴る。孤爪くんがグラスを傾けていた。意図が分からず、孤爪くんの顔を盗み見ようとすればしっかりと目が合ってしまう。

「ミョウジが来るって、たまたま聞いたから」
「へ」

目が合ったまま薄らと口角を上げてそう言った孤爪くんに、私は動けなくなった。

「もう帰るならさ、一緒に抜ける?」

固まったままの私の手からグラスが抜かれ、そっと指が絡まった。
孤爪くんって細身だけど、指も細長いんだなぁ。でも、しっかり男の子だなぁ。なんて頭が現実逃避をする。

手を引かれるまま、パンプスがカツンと音を鳴らして進み出した。


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