この時間、この場所で


……あ、今日も会えた!

2両目の3番ドア。反対側のドアの近くで立っている金髪頭。最近私が気になっている人。名前も年齢も知らないけれど、一目惚れというか、なんというか……。
毎朝の通学電車で出会うようになって、もう半年くらい。朝練のためにそれまでよりも早い時間のこの電車を使うようになってから。
私より前の駅から乗ってきていて、私が降りる駅よりも1つ前の駅で降りていく。制服から学校は分かったけれど、その学校ーー音駒高校に知り合いもいなくて、この半年間でなにも進展はナシ。
通学には少し早いこの時間に乗ってるってことは、あの人も部活の朝練なんだろうな。エナメルバッグ持ってるし。
あと、金髪頭さんもそこそこ高い身長なのだけれど、いつも一緒にいるツンツン頭さんはとっても身長が高くて、なにかそういう身長が必要なスポーツなのでは、と推理。バスケとか、バレーかなぁ?……まぁ、どの競技にも背高い人はいるんだけど。
なんてボーッと考えていると電車内が急に混み出す。

「わわっ、」

気を抜いていたせいでドッと押し寄せてきた人たちに抗うことが出来ず、あれよあれよと車内を移動させられる。
普段から混む駅だけど、なんか今日混みすぎじゃない?!

「わっ?!」

やっと動きが落ち着いたところで顔を上げてみれば、驚きで思わず声を上げてしまい、ハッと口元を押さえた。
だってだって!目の前に金髪頭さんがいるんだもの!
金髪頭さんにぶつかってしまわないように必死に踏ん張っていれば、ツンツン頭さんに「ダイジョーブ?」と声を掛けられた。混乱してて「ヒャイ!」とか変な返事をしてしまって、ツンツン頭さんには吹き出されるし金髪頭さんにも聞かれただろうしで消えたい。

「ここ」
「へ?!」
「掴まってなよ」

ここ、と少し横にズレて手すりを指差す金髪頭さん。
は、話しかけられたぁ……!!

「あ、ありがとうございますっ」
「……」
「……あの?」
「あ、ごめん」

手すりに手を伸ばしている間、じぃっと猫みたいな瞳で見つめられて、恥ずかしいやら緊張するやらで心臓がばっくんばっくんしてる。

「次で俺たち降りちゃうけど平気?」
「あっ!ハイ!私も次の次なので!」
「そっか、じゃあお互い朝練頑張りましょーネ」

ヒラヒラ〜っと大きな手を振って電車を降りていくツンツン頭さん。それに着いていくように金髪頭さんはこちらに軽く会釈してから降りていった。緊張から解放されて、ほぅっと息を吐く。
緊張したけど、少しだけど、話せて嬉しかったぁ……!
ばっくんばっくん煩かった心臓が、電車の揺れにあやされる様に落ち着いてきて、次の駅に着く頃にはすっかり平常通り。
ちなみにその後の朝練はキャプテンに褒められるくらい絶好調だった。

▽▲▽

金髪頭さんと奇跡的に話すことができてから1週間くらい。この1週間も朝の電車で見かけていたのだけど、なんと!目が合うと「あ」という顔をしてあのときみたいに軽く会釈してくれる様になった。
こ、これは俗に言う“認知”というやつでは?!と舞い上がってしまうのはしょうがないと思う。またあの日みたいに混雑しないかなー、なんて。
部活を終えて帰りの電車に乗り込んで、空いていた角っこの席に座る。朝みたいにラッシュ時ではないこの時間はゆっくり座って帰れるのだ。仕切りに頭を預ければ疲れた身体はすぐに睡魔に襲われた。

トントン、トントン、と肩を叩かれるような感覚でうっすらと目を開ける。誰かの荷物でも当たったのかな、と薄目で横を見ればぼんやりと黄色い頭が目に入った。

「っえ、!」
「……次、降りる駅じゃない?」
「あ、え?!」

横に座っていたのはまさかの金髪頭さんで、眠気で薄らとしか開かなかった目がこれでもかというくらい大きく開いたのがわかった。
金髪頭さんの言葉に、バッとドア上のモニターに目をやれば確かに次がもう私の降りる駅だ。
起こして、くれたの?

「爆睡だったから一応……ごめん」

状況が飲み込めずにじぃっと金髪頭さんを見つめて固まってれば、視線を逸らして気まずそうにボソリとそう呟いた。

「い、いえ!助かりました!!」
「……そう」

起きたならもう用はない、とでも言うように前を向いてしまった顔。
あああ……折角隣だったのになんで寝ちゃったんだろう!でも、起きてても話しかけられたか分かんないし、こうやって起こしてもらえたから寝てた私グッジョブ!……じゃなくて!名前とか、聞くなら今しかないじゃん!
もう少し駅に着くのは待ってくれと願いながら金髪頭さんに声をかける。ぎゅっと膝に置いた手がスカートを強く握った。

「あの!」
「え、俺?」
「お、お名前教えていただけないでしょうか……!」

俺?という問いにコクコクと頷きながらそう言い放てば、金髪頭さんがキョトンとした顔でこちらを見たのと同時に、まもなく駅に着くという旨のアナウンスが車内に響く。
間に合わないか、と諦めて席を立ったところで鞄を少しだけ引かれた。金髪頭さんの指が、遠慮がちに鞄を摘んでいてバチリと視線が絡む。

「孤爪、研磨」
「こづめ……けんま、さん」
「うん、そっちは?」
「っミョウジ ナマエ、です!」

電車がホームに滑り込んで、停車した。摘んでいた指が離されて鞄が軽くなる。

「また明日ね、ミョウジさん」

金髪頭さんはほんの少しだけ唇に弧を浮かべながら、控えめに手をあげてそう言った。

「ま、また明日!こづめけんまさん!」

肩に掛けた鞄の持ち手をぎゅっと握りしめて、こづめさんと同じように控えめにあげた手を振りながら電車から降りた。
にやける顔を抑えることもせず、聞いた名前を忘れないように頭の中で繰り返し呼びながら帰路についた。
どういう字、書くんだろう。明日聞けるかなぁ……ていうか明日、声、掛けてもいいかなぁ。


二人の距離が急速に縮まる翌朝のいつもの電車までーーあと十数時間。

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