近くて遠いのセンチメンタル


「お願いします!」

まるで告白のように目の前で手を差し出しながら頭を下げている幼馴染2人。しかしその手には告白には似つかないバリカンが握られていた。まぁ、告白ちゃうし、どっちかを選ぶ訳でもないんやけど。
なにやら刈り上げ部分が伸びてきたから刈って欲しい、とのことらしい。わざわざ休日の朝っぱらから。

「いや、流石に無理やろ」
「女子って前髪自分で切るんやろ?!いけるいける!」
「それとこれとはどう考えてもちゃうねんな〜」
「ナマエ手先器用やから絶対いける!」
「……治はやったろかな」
「なんっでやねん!サムにやるなら俺にもやれや!」
「せやな、先に侑やな、侑で練習してから治やろか」
「おん、頼むわ」
「練習台にすな!」

ぎゃーぎゃーとうるさい侑は無視して、手からバリカンだけを奪う。思ったよりもずしりとしたその重量に驚いた。
……いやぁ、バリカン使ったことないんやけど。ちょっと怖ない?

「てかオカンにやって貰うとか、自分らで刈り合いっこすればええやん」
「オカンには頼み方がなってへんて断られた」
「サムに刈ってもらうとか怖すぎるやろ!」
「そっくりそのまま返すわドアホ!」

また言い合いが始まりそうな雰囲気に「喧嘩するならやらんでアホども」と呟けばスンッと黙る2人。そのスンッてした顔、そっくりすぎておもろいんよな。てかオカンにどんな頼み方したん。

さぁさぁどうぞー、と2人に背中を押されてやってきたのはお隣さんである宮家のベランダ。すでに芝生の上には新聞紙と椅子が用意されていた。その光景を見て、双子が小さい頃もこうやってベランダでオカンが散髪してたなとふと思い出した。私も横で「美容師さんごっこ〜」なんてハサミを鳴らして見とったっけ。
どかりと椅子に座った侑に、穴を開けたゴミ袋をケープ代わりに被せる。

「これ何ミリとかあるんやっけ?」
「あー、あんま青ないほうがええな」
「ふーん、で?それ何ミリ?」
「知らん」
「……全剃りな?」
「アカン!」
「大丈夫、侑くんイケメンやから坊主でもイケメンやで」
「そうか?……ってアホか!真面目にしろや!」
「……はぁ?」
「すんませんでした、6ミリでお願いします」
「はーい」

最初からそう言えや、と心の中で悪態を吐きながらカチカチとバリカンを6ミリに。そっと侑の肩に手を乗せてバランスを取る。いつの間にかがっしりと分厚く成長していたその肩に、少しはっとした。
すーはーと深呼吸をひとつしてから、いざ。
スイッチを入れればガガガと振動が手に伝わって侑の黒髪が落ちていく。まずは後ろから。
治の前の練習、だなんて言ったが丁寧にやってやろう。失敗したら私にやられた、と学校で言いふらしそうだし。人気者の侑にそんなことを言いふらされては私の身が危ない。

「よっし、こんなもんちゃう?」

たぶんちゃんと剃れてる、はず。
後ろも横も一度確認してからどうだと聞けば、うなじ辺りをジョリジョリと触ってオッケーを出す。……見た目ちゃうくて触り心地で決めるん?

「次、治やんでー」
「おん」

口をもごもごとさせながら侑と交代して椅子に座り、ゴミ袋を被せる。てか何食うとんの。侑にもそう突っ込まれ「菓子」とだけ答えた治。菓子て!?なんの菓子やったんか気になってまう。

「治も侑と同じ6ミリでええの?」
「おん、お願いしまーす」
「はーい」

侑と同じように肩に手を乗せて、バリカンのスイッチを入れる。治の肩も、がっしりしとんなぁ……。
侑のを終えたあとだからか、さほど緊張することもなくスムーズに刈れた。私上手いかもしれん。
治も触った感じでオッケーを出して、本日のナマエ理容室は閉店。
片付けをしていれば双子のオカンにお礼と共にお菓子を渡された。あ、これ私が昔から好きなやつや。オカン覚えてくれとったん?好き。

「いや〜!すっきりしたわ!ありがとうな!」
「助かったわ!ありがとうな」
「いーえ、お返しはスタバの新作でええよ」
「は?!自販機のコーヒーで十分やろ!」
「いやツム、そこはせめてコンビニコーヒーやろ」
「……ほんっまに!もう頼まれてもやらんからなアホ!」

コンビニコーヒーも自販機もどっちもほぼ100円で変わらんし!てか私が飲みたいんはコーヒーちゃうし!
ベシッ、と丸めた新聞紙を投げ付けて宮家の門扉を出れば後ろから「悪かったって〜」などと抜かしながら着いてきて、さも当たり前かのように繋がれた両手に思わず足が止まった。

「なん?」
「いや、こっちが聞きたいんやけど」
「なにが?」

急に止まった私を不思議そうに見てくる2つの同じ顔。
いやいやいや、なにが?ちゃうくない?

「手!なんで繋いどるんよ」
「昔はよう繋いどったやん〜」
「一緒に帰る〜言うて」
「大昔の話やろ、なんで急に」
「最近ナマエが構ってくれへんから、なぁ?」
「なぁ?」
「ぅわっ?!」

ぐいっと繋がれた両手を2人のほうに引かれてバランスを崩す。転ける、と思ったところを2人の腕に支えられてそのまま両側から抱き締められた。「なんなんも〜!」と口では抵抗したものの、私の両手はぎゅっと握り返してしまう。

構ってくれへん、ってどの口が言うんよ。こっちのセリフやんか。
バレー頑張っとる姿もかっこええけど、たまには昔みたいに3人でわちゃわちゃしてたかった。人気者の宮兄弟には学校じゃ近づけなかった。

なぜだかじわりと滲んできた涙が零れてしまわないようにズズっと鼻を啜れば、両側から緩く笑われてしまう。

「ナマエチャンは素直に甘えられへんからなぁ」
「ほんま世話焼けるわ〜」

そんなことを言いながらわしゃわしゃと頭を撫でられる。どうしてこの双子は変なところで鋭いんやろか。

「っ、世話焼けるんはアンタらやろぉ……」
「ははっ、せやなぁ」
「せやからナマエにはずっと横に居ってもらわなアカンなぁ」
「……しゃあないからまだしばらくは2人の世話したるわ!」

ケラケラと笑うその顔も、昔から変わらずそっくりだ。


2021.10.5

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