はじめての温度


「研磨、」
「……なに」
「……なんでもない」
「ナマエさっきからそれ3回目だけど」
「ううう……」

もう3回目だからかゲーム機から視線すら逸らさず首を傾げる研磨。
いや、視線くらいちょうだい?!
私が何も言う気がないとわかると首を縦に戻してまたゲームの世界に入っていく。
研磨と恋人という関係になってから今日で1ヶ月半。今はお家デート中。……といっても昔からよく研磨の部屋に入り浸っていたから『彼氏の部屋』に特別緊張している訳ではない。ゲームばっかで構ってくれないからって怒っている訳でもない。これもいつものことだ。
クッションを抱えて研磨をじっと見つめる。戦いに苦戦しているのか、薄い唇が「う」の形に尖っている。最近、どうしても唇に目がいってしまう。
私は『幼馴染』という関係では触れられないところにそろそろ触れたいのだ。
ズリズリとお尻を床につけたまま足を動かして研磨の目の前まで行っても、研磨はちらりと視線を寄越すだけ。それに少しムッとして、なるべくゲームの邪魔にはならないように研磨の唇に手を伸ばした。

「……なに」
「研磨……ちゅーしたい」
「……は」
「あ」

漏れてしまった心の声。
やば、と口元に手を当てたが、時すでに遅し。顔を上げた研磨の目はまん丸だった。

「ごめ、いやあの……」
「したいの?」
「え、と……うん」

しどろもどろになりながら答えれば研磨は「ふぅん」とだけ言って顔を下げてしまう。
あぁ、やらかしたなぁ……。抱えていたクッションをぎゅう、と抱きしめて顔を埋めた。鼻の奥がツンとした。
ていうか、ふぅんってなんだ、ふぅんって。……研磨はキス、したくないのかな。まだ幼馴染気分なのかな。

「ナマエ」
「なに……わっ?!」
「そんな驚かないでよ」
「だって……」

名前を呼ばれて、おずおずと顔を上げたら目の前に研磨の顔があった。本当に目の前。その近さに固まっているとクッションを腕の間から抜かれ、開いた腕のスペースに研磨が入り込んできた。

「よいしょ、っと」
「え?!」
「うるさ……耳元で叫ばないで」
「いや、だって……ごめん」

よいしょ、と言いながら私の腕を持って自分の首に回させる研磨。こつん、と額同士がぶつかった。
え、あれ?もしかして、キスする雰囲気なの?
自分から言い出したことなのにまさか叶えてもらえるとは思わず、この雰囲気に気づいた途端にカッと顔が熱くなった。ぶつかっているおでこはもっと熱く感じる。研磨もドキドキしてくれているのかな。

「けん、ま」
「目瞑ってよ」
「え、あ、うん……」

頬に研磨の手が添えられて、思わずぎゅっと目を閉じた。見えないけど、ちょっと笑われた気がする。
仕方ないじゃん、ファーストキスなんだから。わかんないよ。
軽く親指で頬をなぞられたと思ったら、唇に私の体温よりも少し冷たくて柔らかなものが触れた。ほんの一瞬だけ触れて離れていく。

「っふ、力みすぎ」
「な!うるさい……」

目をあければちょっと馬鹿にしたように笑われたけど、その研磨の頬と耳が赤くて胸がきゅーっとなった。なんだか、くすぐったい。研磨もドキドキしてくれてる。
首に回されていた手を外して、頬にあった研磨の指と絡めた。

「満足した?」
「……もっかい」
「欲張り」

もう一度重なった唇は、さっきよりもちょっとだけ熱かった。


2021.09.10


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