低気圧さん本気出さんでええよ。あと、もうちょっとあっち行ってくれん?
なんて天井を眺めながらぶつぶつと、どうにもならない天候を恨んだ。頭痛はひどいし、目を瞑ればぐるぐる回って寝ようにも気持ち悪くて寝られない。そして寝られないからと立ち上がればフラッフラ。真っ直ぐ歩けやしない。どうしようもなくて、とにかく横になっているしかなかった。
「ナマエ〜」
「ん〜?」
「体調どうや」
「ぐるぐる治らへん〜」
様子を見にきてくれた治が、ベッドの縁に座ってそっと頬に手を添えてくる。水仕事をしていてくれたのか少し冷たい。でもひんやりしたそれが気持ちよくて、頬を擦り寄せた。
「冷たいの気持ちい」
「冷えピタでも貼るか?」
「ええかもなぁ……」
「あ、せや。これから夕飯の買い出し行くけど食べたいもんとかあるか?」
「んー……ゼリー食べたい、桃のやつ」
「ん、桃のゼリーな。夕飯は?」
「……思いつかへんけど食欲はある」
「ほんなら食材見て適当に作るわ」
「何にしようかな」と考え出す治に「あれもこれもごめんな」と謝れば軽く笑って頭を撫でられる。わ、ちょお、強いて。頭ぐわんぐわんするんやって。
「行ってくるわ、大人しゅう寝ときや〜」
「ん、いってらっしゃい」
瞼を閉じるように優しく目元を手で覆われ、それに倣ってそのまま目を瞑った。あ、今なら寝れそうや。治の手って、なーんか心地ええんよな。
目を瞑ったまま遠くでドアの閉まる音を聞いて、ゆっくりと意識を手放した。
○
喉乾いた。
目が覚めて1番にそう思って、のそのそと起き上がる。30分ほど眠れたが、まだ治は帰ってきていないみたい。朝よりかは幾分か目眩もマシになっていることを確認し、壁伝いにキッチンまで歩いた。自分の足取りがよろよろしすぎて笑けてくる。
キッチンで冷たい水を飲んでいると、玄関からガチャガチャと鍵の音が聞こえた。治と桃のゼリーが帰ってきたみたい。
「おかえり〜」
「おわっ!起きとったんか、ただいま」
「ちょっとマシになった」
「そりゃよかった」
廊下に顔を覗かせててみればやけに重そうな袋を持った治。よいしょー、とキッチンまで来てポイポイ冷蔵庫に食材を入れていく。袋を覗いたが、これは少し嫌な予感するなぁ……。
「じゃがいももにんじんも安かったからカレーすんで!カレー!」
「おん、ええなぁ」
「肉も安かってん!」
「おん、それは良かった」
「カレー食べれそうか?」
「おん……私が頼んだやつは?」
壁に凭れ掛かりながらそう問えば、口をぽかんと開けてたっぷり3秒沈黙して「え、何頼まれとったっけ」と零した。……そんな気はしとったわ。
「ゼリー……」
「あー!!桃のゼリーやんな!?」
「桃のゼリー……」
「すまん!すっかり忘れとった……!買うてくるわ!」
わざとちょっとしょんぼりして桃のゼリーのことを呟けば焦って立ち上がり、エコバックから財布を取り出して買いに行こうとする治。どうせスーパーに行って野菜を見たらカレーの頭になってしまって、桃のゼリーはすっかり頭から飛んでしまったのだろう。
買いに行かなくていい、と今にも飛び出しそうな治を止めれば「でも……」と眉を下げてしょんぼりとされてしまい、思わず笑みが溢れた。かわええ。
そんな治の頭を背伸びしてわしゃわしゃと撫でてやる。
「美味しいカレー食べれんくなったら困るから、今日はええの〜」
「!!むっちゃ美味いカレー作ったるから待っとき!」
「お腹空かせて待っとくわ」
「おん!!」
下がった眉は上がり、パァッと笑顔になった治はポケットにしまった財布を戻して、私を上からぎゅっと抱きしめた。
「今度桃のゼリー買うとくな」
「3つな」
「3つも食うん?!」
「私が2つで治が1個〜」
「え、」
「一緒に食べてくれへんの?」
「食う!!」
「ふふ〜、美味しい桃のゼリー探しとこ」
「たっかいやつはやめてな……」
どうしよっかな〜、と治の胸に顔を埋めながら言った。治の背中に回した腕をぎゅうぎゅうと締めれば、治もぎゅうぎゅうと返してくる。
夕飯を作るまでにはまだ時間があるから、折角の休みの日が体調不良で潰れてしまった可哀想なナマエチャンに少し構ってもらおうっと。