キミの好きなお菓子



「て、鉄朗!!」
「ちょ、痛い痛い、なに?」

週末の買い出し中、レジに向かっていれば隣にいたナマエが突然、興奮気味に俺の腕をバシバシと叩いてきた。何事だと問えば「あれ!!」とナマエの横のカラフルな棚を指差す。……そこはお菓子の棚ですけど?しかも知育菓子。最近のはお寿司屋さんとか屋台とかすげえ色々あるんだな。

「わかんないの?!これ!!」

ナマエが指している対象がどれなのかわからず首を傾げていれば、ダッと棚へ駆け寄って一つのお菓子を俺に見せつける。

「デラックスねるねる!!!!」
「うわ、でっか」
「やばくない?!初めて見た!」

きゃー、と歓声をあげながらナマエが手にしていたのは俺が知っている『ねるねるねるね』の倍以上あるサイズのものだった。デラックスというだけあって本当にでかい。パッケージ、ナマエの顔くらいあるんじゃねぇの?

「買っていい?」
「好きだねぇ……」
「だいすき!」

そんな満面の笑みで言われちゃ、買っちゃだめなんて言えませんよ。ナマエは手に持っていたデラックスねるねるを、ぽーい!と効果音が付きそうなくらい楽しそうにカゴに入れてレジへと向かった。
ナマエは昔から『ねるねるねるね』が好きで、何度か一緒に作らされたこともある。最初は高校のときだったか。あのときはまだただのクラスメイトで、教室で練りだして爆笑した思い出。他の知育菓子も作ってたり、長いグミを食べたりもしてたっけか。

デラックスねるねるを楽しみに、るんるんで帰宅したナマエ。早速作り始めるらしく、テーブルの上に水とデラックスねるねるを並べ始めた。

「鉄朗も一緒にやろー!」
「ハイハイ」
「でかーい!やばーい!!」

パッケージを開けてみれば特大サイズの容器。……こんなにねるねるねるね出来んの?と、作る前から少々不安になる。

「トッピング4つもある!美味しそう〜!」
「あんまはしゃぐと零しますよ、ナマエチャン」
「鉄朗どれ食べたい?私ハートかなぁ」
「ん〜?お、これトッピングルーレットできんじゃん」
「え!ほんとだ!!ルーレットもしよ!」

楽しそうにぐるぐると練り始めたナマエにカメラを向けてパシャリ。高校のときも写真撮った気がすんな、とカメラロールを遡れば同じような構図の写真が出てきて思わず吹き出した。ぶっ、全然変わってねぇのな。

「先食べていい?!」
「ドーゾ」
「んふふふ、こんなにたっぷり取ってもまだまだある!」
「あ、そのままこっちに目線くださーい」

大きめに一掬いしてハートのトッピングをたくさん付けたところでこちらを向かせ、ねるねるねるねとツーショット。いい笑顔だこと。
大きな口を開けて頬張り、しあわせそうな顔でデラックスねるねるを味わうナマエ。ここ最近で1番良い顔をしているのでは、と思うほどだ。
その顔が見れて嬉しいけれど、俺がその顔をさせた訳ではないのが少しばかり悔しい。デラックスねるねるに負けた気分なんですけど。

「鉄朗も食べる?」
「あーん」
「へっ?!」

あーん、と口を開けて待ってみればスプーンを持ったまま固まられてしまった。じわじわと赤く染まっていくその顔がなんとも可愛らしい。
俺からのあーん、はいつも何でもなくやるくせに、自分がやるとなるとそんなに照れんのかよ。

「はやくー」
「っ、はい!」
「んぶっ」

恥ずかしさのあまりか、勢いをつけて口に突っ込まれた。……もうちょっと優しく入れてくれませんかね?
「美味しい?」と聞いてくる真っ赤なその顔を見たら文句なんて言えねぇけど。

「うまい」
「ふふ、でしょ!次どのトッピングにしようかなぁ」

特大サイズのねるねるねるねは、ナマエによってペロリと食べ尽くされた。出来上がる量を不安がる必要は全くなかったようだ。

「しあわせ……」
「そりゃ良かった」
「鉄朗、私誕生日にこれいっぱい欲しい!」
「は?」
「だめ?」
「……俺以外に頼んでくださーい」
「えええなんでよう!」
「なんでも!」

いくらお前の頼みでも、恋人の誕生日にねるねるねるねをあげるのは格好がつかないでしょうが。それにもうプレゼントは準備してあるんでね。
でもまぁ、ナマエのしあわせそうな笑顔がまた見られるのなら、おまけに買ってやっといても良いかもしれない。
……あれ?やっぱ俺デラックスねるねるに負けてね?


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